21-4 雨対策
「あれ? 夏鈴、帰ってきたんだ。早いね」
「長雨に足止めされたので、旅を中断したんですよ」
「そう。大事ないなら良いわ」
帰ってきた創達を最初に見付けたのは、凛音であった。
彼女は神戸町でのお仕事がある為、旅について行かなかったのだ。
凛音はある意味、創達の中でも最大戦力だ。
遠距離の最大火力、魔法攻撃で言えば創の方が上だが、魔法の連続使用や経戦能力まで加味すると、凛音に軍配が上がる。
ただ、調査にそこまでの戦力が必要かどうか疑問である。
それに通常の敵、例えばドール10人分ぐらいであれば魔剣部隊らだけで十分対処可能なのだ。
凛音が居れば助かるのは確かだが、仕事を抱える彼女を絶対に連れて行かねばならないほどの状況ではないと判断した。
かつては三人一組だった夏鈴・凛音・莉菜の三人だが、今ではバラバラに動く事の方が多い。
昔とは状況が違うし、仲間も増えたし、そもそも役割分担を考えそれぞれが違う仕事を抱えやすいよう能力を育ててきた。
三人がいつまでも一緒という事には、なれなかったのである。
仕事ではバラバラに行動する事が多い三人とは言え、プライベートな時間では、三人一組で行動する事の方が多い。
夏鈴は一足先に人妻になったので俺との時間も多いのだが、だからといって友情を蔑ろにする事はなく、二人との時間を大切にしている。
三人娘の誰かの部屋に集まって騒いでいるのだろうが、そういった時は、家の中がかなり静かになる。
たぶん、凛音辺りが魔法で音漏れを防ぐ防諜対策魔法を使っているのだろう。女三人なので文字通り姦しいだろうから、非常に助かる。
俺には盗み聞きの趣味も無いしね。静かな方が助かるんだ。
一人で部屋にいるのだから、俺は今回の旅の失敗を反省する事にした。
「雨の中を移動できるようになると、かなり助かるんだけどな。
でも、無駄が大きいっていうか、大がかりになるよな」
雨で足止めされた。
ならば雨を防ぐ傘のような防壁を魔法で作ればいいかというと、それだけではないので片手落ちになる。
泥濘んだ足下にも対策が欲しいのだ。それを考えると、対策が非常に難しくなる。
「んー。弱く長くでも、防壁出しっぱなしはキツそうだ。
足下の方は……凍らせれば良さそうだけど、それも消費が大きい」
足下をどうにかする魔法は難しそうなので、まずは傘に相当する魔法を考える。
物理防御魔法の『バリア』を弱く長く出し続けられれば良いかなと、『コンテニュティティ・ファイア』を参考に魔法を組んでみたが、それでも消費が大きすぎて話にならなかった。
雨を防げる程度の防御力で良いかと思えば、山林を移動するのでは枝葉がぶつかる為、それでは足りないというのが現実だ。
結果、コストが重くなりすぎる。
気分転換に泥濘み対策も考えてみたが、こちらも難航。
地面を踏んだら、足の周りが凍るようにすれば良いかなと、最初は簡単に考えた。
しかし一歩ごとに『マナ・ボルト』一発を撃つような魔力消費を強いられるので、これも現実的ではない。
大狼に『永久氷晶』でも合成して種族特性にしてやろうかと思ったけど、それだと騎乗用として適さなくなってしまう。
もしも成功したら、しがみついているだけで凍死しそうだからね。
「安易に楽はできない、だね」
雨の対策は、チマチマ考える事にしよう。
もう、マジカルな雨合羽で良いかもしれないなぁ。