21-3 雨の日
何度も旅に出ていれば、やる事はルーチン化する。
と言ってもまだ3回目なのだが、それでも俺たちのする事はあまり大きくは変わらない。
むしろ、変わったら大変なのだが。
旅先で困る事と言えば、雨だろう。
気象衛星による天気予報の無い世界では、数日先の天気など分からない。100㎞も移動すれば、行った先は雨でした、など珍しい話でもない。
200㎞も先であれば、天気が違ったところで驚くほどの事ではない。
雨の中を移動するのは、大狼たちの体力を大きく奪う。雨で体温が下がるし、足元がぬかるんで普段以上に気を遣う。
その大狼たちにしがみ付いている俺たちも同様だ。雨合羽は作っているけど、だからと言って何の影響も出ないほど優秀じゃなかった。
雨天の移動はリスクが大きい。
そう判断した俺たちは、京都にたどり着いて宿をとった翌日から、そんな雨に3日ほど足を止めることを余儀なくされた。
雨で足を止め、4日目。
「雨、止みませんねぇ」
「ああ。ずっと降っているよな」
ガラスの窓でもあれば目で見て判断するのだが、大粒の雨であれば屋根を叩く音だけでも雨が降っているのが分かる。
この音が、かなり煩い。
俺は夏鈴を後ろから抱きしめ、互いの体で暖を取りつつ、じっとしていた。
俺のメイン作業は魔力消費によるカード強化だからな。
あまり体を動かさなくても問題はない。
夏鈴も魔法による周辺警戒をしているし、働いていないわけではない。
「予定を変更して、延長するか、引き返すか。
どちらも面倒だな」
「まだ1日分の移動でしたし、引き返しても問題ありませんよね」
じっとしていて、無言であっても、俺たち二人なら間が持たないという事は無い。
だが、それよりも今後の打ち合わせだ。
ここからどうするか、考えないといけない。
「さすがに、10日のうち4日を雨で足止めされたからと言って、潰していては現地調査の時間が無くなる。その分を延長すると伝えてしまうか」
「一度帰って、仕切り直しをするかですね。10日ぐらいと言って出てきましたが、さすがに5日6日と急な延長をしてもいけませんから」
「戻れば、往復2日が無駄になりそうだな」
「進めば、村への連絡を含め、手間がかかりますね」
俺は進んだ方が無駄が無いと思う。
夏鈴は戻った方がリスクが低いと考える。
意見が食い違った。
そんなときに、俺の下した判断は。
「戻るか」
「はい」
夏鈴の意見を採用した。
無駄を嫌ってリスクに挑むより、手間でも戻ってローリスク。
慌てる場面であれば俺の意見を通すけど、今は時間に余裕がある。
ならば、安全を優先するのが正道だろう。
俺たちは、京都で漬物とかを大量に買い込み、一回村に戻った。