20-18 救済①
助けられるかもしれない命を助けるというのは、とても自然な事だと思う。
その結果、自分が死ぬかもしれないとか、大切な物や財産を失うかもしれないとなると、話は違ってくるけど。
片手間というか、そこそこ程度の労力で助けられるのであれば、俺だって誰かを助けようと思うわけだ。
やるとしたら、二人一度にやってしまうのが良いと思う。
片方を助けた後、時間を空けた事で対策をとられ、もう片方を助けられないのは残念すぎる。
相手が動く前に、一気にやってしまうべきだ。
「何をするかは、教えて頂けないのですね?」
「ええ。これは、俺にとって簡単に明かせない切り札なので。
ただ、あの二人は必ず助けて見せますよ」
岐阜市の兵士達が全員無事に帰還すると、終戦処理が始まった。
兵士達は無傷だけど、無策で進んでいけば無視し得ない被害を受けるとして、戦闘開始前ではあるが、戦闘続行不可能と現場の大将が判断した。
市民の方は、無駄に人を死なせるのは無駄であるし、弱腰ではあるが良い判断だったと大将を褒めた。
そして、無策で戦争を仕掛けようとした評議会を責めている。
軍の方は、ゴブニュート村と取り引きが出来るのであれば、爆弾を購入し、越前防衛の強化に使うべきだと上申している。
戦争をした場合、火薬草の栽培と爆弾製造の技術が失われてしまう可能性がある。人類の為と言うなら、そんな事にならないよう、先に手を打つのが必須だと桜井氏が力説しているらしい。
戦争を仕掛けるのは、諜報でも交渉でも何でもいいから、最低でもその技術を得てからだと。軍はその様に判断している。
そして評議会は、戦争を仕掛けた事に対する賠償責任を負う事になった。
双方に人的被害が出ていないのは不幸中の幸いだが、それでも戦争を仕掛けた側であり、一方的な敗北をしたのだから、金銭などの支払いをする義務が発生するのだ。
周囲の制止を振り切り開戦を宣言したのだ。大して被害が出なかったからもう良いよ、とは誰も言わない。
俺は評議会と軍の代表の二人を呼び出し、相手側の護衛や第三者の立ち会いも無しで、こちらの要求を突きつける事にした。
俺は夏鈴やカーバンクル、護衛数名を同席させ、周辺の警戒もきっちり行い、安全を確保してから浅野さんと桜井氏の両名と対面した。
勿論、二人はボディチェック済みだ。
服などはこちらが用意した物に着替えさせもしたよ。
さすがに、下の穴までは確認しなかったけどね。
「おひさしぶり、と言うにはまだそんなに経っていませんね」
「……そうですね」
「ま、お二人も座っていいですよ」
浅野さんは俺が声をかけると、どこか憑き物が落ちたような表情で返事をした。
なんと言うか、やりきった後の脱力状態というか、真っ白な灰になってしまった後のようである。
そして桜井氏はここが正念場だとばかりに気合いが入っている。
まだ口を開いていないけど、この場では負けないとばかりに俺に鋭い視線を向けていた。
勝者である俺たちは、これから岐阜市に対して色々と要求を通せるわけだが、それでも無制限に相手から徴収できるわけではない。
二人にとってはその話をするのが本題だったのかもしれないけど、俺の要求は全くの別件なんだよね。
ま、きっちり俺に従って貰いますかね。
それこそ、カード化して貰うぐらい。