20-16 発破
「さて。我らは降伏するわけだが、貴君は我らを如何するかね?」
「翌朝、こちらのデモンストレーションを見て頂いた後、お帰り願おうと思います」
「ほほう。では、明日を楽しみにさせて貰うとしよう」
大将の桜井氏をロープでグルグル巻きにするのも面倒くさかったので、武装解除した指揮官な人達と一緒のテントに押し込み、数名の見張りを立てて翌朝を待った。
そして翌朝。
こちらのデモンストレーションを見るまでも無く、桜井氏が兵士たちに降伏した事を説明した。
「あー。もう帰れるんだ」
「全く。上は何をしたかったんだろうな」
「何でもいいだろ。さっさと撤収準備をするぞ」
桜井氏に「我々は敗北した」と言われた兵士たちは、歓喜するでもなく、淡々と撤収準備を始めた。
一部の兵士は大狼たちを見て怯えていたが、それでも戦えと言われているわけでも無いから、ちょっと気にしつつ作業をしている。
なんと言うか、拍子抜けというか、どうにも複雑な気分になる。
ここまであっさり負けを認め、国に帰ろうとしている連中との戦争を意識していたのかと。
不完全燃焼もいいところであり、その後のデモンストレーションを中止すべきかと一瞬悩んだが、一応だけど、デモンストレーションはやる事になった。
彼らの作業が完了するのを待って、帰る前に、派手に発破しようと言われたのである。
「よく見給え。我らの敗北が必至であった事を証明する為、ゴブニュートたちの技師が良い物を見せてくださるそうだ」
一晩だけの野営の為に作られた簡易陣地の撤収作業は、1時間ほどで終了した。
そして荷物を綺麗に片付けた兵士たちは綺麗に整列し、桜井氏の言葉を静聴している。
俺はわざわざ人前に姿を見せる理由も無いので、魔剣部隊の隊長を生け贄に、こっそり隠れている。
「では、宜しく頼みます」
「おう。では、いくぞ。ポチッとな」
隊長は懐から小さなオイルライターのような物を取り出したかと思うと、蓋を外し、親指でボタンを押し込んだ。
最終兵器『ポチッとな』。
ネタ枠ではあるが、頑張って作った無線起爆装置――ではなく、単なる様式美である。
見た目だけの、何の意味も無いアイテムだ。
実際は、俺が有線で起爆指示をした。
ボタンが押し込まれるのに合せ、俺が起爆指示を出すと、陣地近くに仕込んだ爆薬に火花が飛び散り、火が付いた。
そして――轟音。
それが、続けて3度。
爆弾の爆発が大気を震わせると、天高く土砂が吹き飛ばされ、パラパラと辺りに飛び散る。
大きな音に驚いた野鳥が一斉に飛び立ち、隠れていた小動物たちも音のした方角から我先にと逃げ出す。
飛び散った砂礫が兵士たちの頭や顔に当たるのだが、動ける者など居はしない。
度肝を抜かれた兵士たちは、声も出せずに硬直していた。
一発で終わらせなかったのは、複数作る事が出来るよ、まだあるよと、そんな脅しでもある。
狙いは成功した。
これで戦わなくて良かったと、そんなふうに思って貰えるだろう。