20-14 敵陣侵入
出撃を見届けた俺は、岐阜市内で少々暴れまわり、それからバレないように離脱して兵士たちを追いかけた。
岐阜市を出発した軍隊は、長良川を越え、北におおよそ10㎞進んだあたりで野営陣地を作っていた。
川を渡ったとはいえ、人間は徒歩でも1日20㎞進めるが、それは上限に近い数字である。
前へと進むのに急ぎ過ぎて、いざ戦場に立った時に疲労困憊というのは、どう考えてもアホの所業でしかない。
余力を残し、いつでも戦場に立てる体力を残しておくことが重要なのだ。
戦場近くまでは急ぎ足でも、いざ戦地近くになったら進軍速度を落とすのが進軍の基本である。
軍の兵士は同じ美濃の国の人間ではあるが、周囲にある村や町には入らない。入れない。
軍隊というのはどこでも揉め事を起こしかねない厄介者、という理由ではなく、今回の出撃が周囲の理解を得ていなかったため、入れてもらえないというのがその理由である。
軍隊の兵士らだって出撃に納得していないので同じ感情を持っているのだが、当事者と第三者では隔たりがあるわけだ。
理不尽なようにも見えるが、兵士たちも事情が理解できるため、不満は受け入れてくれない町の住人ではなく、出撃を命じた評議会の方に向かっていた。
野営の準備が終わると、夕飯の時間となる。
軍隊の食事は大量生産が基本なので、馬鹿デカい大鍋でまとめて作る。
大の大人が2人ぐらい入りそうなドラム缶にも見える鍋で食材が煮込まれ、配給されていく。
一瞬、どこかのロシア娘が作るボルシチを思い出したが、作っているのは芋煮のようだ。
味噌で味付けされた芋煮は塩気が強く、重い装備を身につけながら歩いてきた兵士たちには好評である。何の疑いも無しに、ではなく、色々と分かったうえで彼らは食事を平らげた。
そこから先は知らないと、愉快気な笑みを浮かべたままで。
「眠いな」
「あああ。なんで俺たちは今日、寝ずの番なんだろうな」
形の上だけでもちゃんとやったという事にした彼らは、基本のルールに従い、そこそこの数の歩哨で周辺警戒を行いつつ、夜を迎えた。
だが、歩哨たちも同じ食事をしていて、とてもとても眠そうにしている。
気を抜けばそのまま寝てしまいそうな雰囲気で、それでも必死に起きたままでいた。
「薬を飲まされたんだろう? もう寝ちまおうぜ」
「お前一人で寝ろ。俺はあとで怒られるのは御免だ」
「あーあ。俺らの食事だけ、別に作ってくれればよかったのに」
「食い過ぎなんだよ。俺は普段の半分しか食っていないからな。ちょっとは考えろよ」
雑談をしている彼らは、視界が悪くないため俺たちを視界の端に捉えているが、顔を背けあえて気が付かない振りをしてくれた。
さっさと終わらせてくれと、顔を向けはしないが、親指を立てて俺を激励する。
ここで声を出して返事をするのも悪いだろう。
俺は無言で頭を下げると、軍の指揮官を押さえるべく、オーディンと共に一番大きなテントへと向かった。