20-11 軍人は戦いたくないらしい
色々と調べて回った。俺以外が。
情報源にしたのは評議会の議員ではなく、議員の家族。
署長さんら、ちゃんとした立場のある人が誠意で説得すると、彼らは頑張って評議会の内情を教えてくれるようになっていたのだ。
基本的にも応用的にも、無駄な戦争を避けたいのはみんな一緒である。
「軍はシビリアン・コントロールの原則に従うけど、それ以上に自身の良心に従うと。
いや、良い事を聞いたよ」
ロクな話し合いも行わず、いきなり武力で解決しようとすることに不満を覚える軍人は岐阜市の中にもかなり多かったらしい。
これが岐阜市の利益になるならともかく、たいした利益にならず、人道に反しており、周囲から評価を下げるだけとなれば、不満を持つのも当然だ。
評議会の勝手な考えだけで、市民の声を完全に無視し、軍を私的に使う事は許容できない。そんな考えで意見が統一されている。
つまり、こちらで出撃後に多少の理由を作ってしまえば、俺たちに降参する事も視野に入れているらしい。
命令に従い、出撃はする。
命令に従い、交戦する。
結果、負けたとしても、負けたと判断し降参したとしても、それは命令違反ではない。
敗北という不名誉を受け入れ、人としての尊厳をとるというのが彼らの選択だった。
だからこちらと交渉可能な署長さんに、周囲にバレないよう、何とか俺と交渉を持ち掛けて欲しいという打診をしてきた。
上手く負けるための、段取りを決めておくために。
ならばと、こちらも生産物をちょっと変更した。
『安眠回復薬(粉末)』:アイテム:☆☆☆:極小:6時間
安眠回復薬は、眠りによる回復を促進する薬である。使用者は眠りにつくと、体の負傷・疲労などがかなり回復する。ただし、眠りが深くなり、6時間は起きることが困難になる。
粉末状であり、水に溶かして使用する。
回復魔法の『ヒール』とジンの調合した『睡眠導入薬』を合成して作った『安眠回復薬』というお薬だ。
最初は昼間も眠い状態にすることで移動を遅らせようと、ジンに「体に害は無いが眠くなるお薬」を依頼していた。
ジンは岐阜市と市民に対し思い入れがあるので、軍関係者の誰もが不幸になら無いような手段であれば協力的だから、依頼はすんなりと通った。
莉奈からの材料供給により大量に作られた薬をまとめて合成したので、魔力コストもかなり低い。
コストに比例し回復効果も低くなったが、回復はオマケなので今回は気にしない。
千人分の供給も、一度だけならそこまで難しくない。
効果を気に入る人も出るだろうし、欲しいと言われそうだけど、それは後で考える問題だね。
この薬にやられて、夜の襲撃を防げず、人的被害ゼロで、出撃初日に、岐阜市には負けてもらう。
軍が休息をとる場所を事前に教えてもらえば、そこまで難しくないだろう。
なんか思っていたのと違う展開になったけど、楽ができて人が傷付かないのは良いことだけどから、結果オーライ。
あ、捕縛用のロープも量産しておいた方がいいかな?