20-9 会談の裏話(自陣)
話と相手の観察の両方に意識を割くのが難しい。
出来る人は片方を意識せずに行えるんだろうけど、俺がやると絶対にボロが出る。
なので、相手がドールかどうかの観察は最小限にとどめ、話し合いの方を中心に進めていった。
合同捜査の方は、岐阜市も参加するという事で話が進むのだが、ちょっと揉めた。
と、言うのも、村と岐阜市の間で戦争が始まれば岐阜市は戦地となり、捜査が難しくなるという点。
建物に火を点けると俺が言っていた事もあり、もしも岐阜市に国主が居たらその時の火災に巻き込まれ死ぬんじゃないかとツッコミが入った。
もちろん、戦争なんだから仕方がないよね、で俺は押し通したけど。
あとは捜査の主導権争いだけど、すでに大垣市が音頭をとる事で傘下組織はまとまっており、今更変える事はしないと主張させてもらった。
情報を隠蔽して自分たちだけで探そうとした岐阜市が、ご当地だからとリーダー面をするのは許さないという事だ。
何より、こんな時に戦争を仕掛け捜査を遅らせるような者たちに主導権を渡すなどありえない。
ごねられはしたが、そこは譲る理由も無いので、こちらの意見が通ったよ。
俺たちの独立、建国を認めないから戦争はする。
国主の捜査は一丸となって行う。
岐阜市との話はそれで終わり、俺は残る者たちとまとめに入った。
「8割方、想定の範囲内に収まったな」
所感としては、そんなもの。
岐阜市との話し合いは、事前に予測されたシナリオの一つがそのまま適用されていた。
相手がどうあっても俺たちの独立を認めず、戦争になるというパターン。
ロジックの面で論破しきれず、だったら戦争だ、は十分に考えられる展開だったのである。
……交渉役が俺だから、仕方がないよね。
そういうのは得意じゃないから。
どちらかというと、外でドンパチする方がまだ楽だから。
「あとは裏でシナリオを描いている奴の想定をどれだけ覆せるか、ですけれど。
死者はできるだけ出さない方向で動くのですよね?」
「ああ。死者が大勢出る事が相手の目的かもしれないし。わざわざ思惑に乗ってやる事も無いだろう。
幸い、協力者は多いんだ。まずは完璧に勝つ、それを目指せるよ」
署長さんは、戦争における今後の方針を確認してきた。
俺は浅野さんとの話し合いで主張した「あらゆる手段を使って勝つ」という方針で、岐阜市に多大な被害が出る作戦をいくつか提案したが、あれはほとんどブラフである。
やったら後々まで恨まれる手段を早い段階でするよりも、岐阜市を味方につけて評議会を追い込む方が楽だし人死にも出ないので評判が良くなるし、良い事尽くめなのだ。
個人的感情論を言えば、本当にやってみたくはあるけれど。
浅野さんとの会話で苛ついた感情のまま、泣かせてやりたいと思うけど。
だからと言って、本当にやっていいわけでもない。
俺が提案したいくつかの作戦。
事前にそうされると分かっていれば人手を割いて防ぐことが可能。
だから人の分散を狙い、防いでもらう為に話をしたんだよ。
防ごうとしなければ、やってなくてもやったと主張し、住人の不安を煽らせてもらうけどね。