20-4 岐阜市との交渉④
出だしは好調。
本題前の前哨戦でこちらがペースを握ったことは大きい。
そう思っていたわけだが。
「つまり、完全に放棄されていた以上、所有権があなた方に移ったという認識なのですね」
「ええ。国土を国土と主張する以上、何らかの管理・干渉が行なわれているのが正常な状態です。
もしもそちらの領土としてそういった状態であったのならば、もっと早くに我々が居たことに気が付いていたはず。
すでにかなりの年数を重ねているにも拘わらず、話し合いの場がこうやって持たれたのは今です。ゴブニュートを認識していなかったことを鑑みれば、以前からあの場に村があったと認識もしていなかった事は間違いないでしょう。
この段階で、何か異論はありますか?」
「ええ、我々はあなた方を認識していなかった。そこに異論はありませんね」
「では――」
「――ですが、それと村の独立性を論ずることとはまた違う。そういう事ですよ。
認識されていなかった。そこで重ねられた年数も含めて。客観的に、それを証明する手段はおありですか?」
一度本題に入ってしまえば、浅野さんは手強かった。
こちらの意見を頭ごなしに否定するのではなく、要所要所を押さえ、こちらの弱点を細かく突いてくる。
俺たちの言葉を認めないのではない。
それを受け入れた上で、自説の正当性を主張しているのだ。
「つまり、どうあっても独立を認めるつもりはないのですね?」
「勿論です。認める理由がないことは説明したとおり。
周辺の町、村、街道。全てこちらのみが抑えた上で、その村は囲まれた場所にあるのです。
領地にそんな“穴”を認める領主がいたとすれば、正気を疑いますね」
「変革以前の――」
「バチカンは参考になりませんよ。宗教上の特異性を考慮することと、あなた方に共通項はありません」
法律は前例を踏襲する。
それを利用した言葉も、相手側の正確な知識により封殺される。
頭が良いだろうとは思っていたが、その博覧強記には舌を巻く勢いである。
いくつか考えていた交渉手段も効果が無く、意見は常に平行線を辿るしかない。
「では、この話は?」
「平行線、で終わりですね」
交わることの無い意見は、物別れに終わる。
結局は、力で意見を通すしかない。
村の独立は、結局戦争でしか勝ち取れない。
「後悔するほどの死者を容認するその冷淡さ。まったく、理解しがたい話ですね。
そこまで自国の民衆を殺したいとは」
「まるで勝てると言っている様子ですが、本気ですか? 防衛戦とは言え、村の人口の数倍の兵士を相手にどこまで善戦するとは、傲慢すぎませんか?」
最後に、戦争を仕掛けるつもりの浅野さんに、嫌がらせ程度の罵倒をしておこう。
命を軽視していると、そう言って彼女を詰る。
すると、浅野さんは兵数を理由に絶対の自信を見せ、どこかとんちんかんな切り返しをされた。
ああ、うん。
そう考える訳ね。
「勘違いを一つ訂正しておきましょう。
もし開戦した場合、攻めるのは、こちらですよ。
そちらの軍が動いたとして、村まで辿り着くまで3日はかかるでしょう。その間、我々は遊撃で岐阜市を攻めます。私達の移動手段であれば、村からここまで2時間とかかりませんし。
そして私達は数が少ないので、周囲の火攻めに水源への毒、人口密集地への爆弾と。打てる手は全部打ちますよ。攻められる前に終わらせるよう、禁じ手など考えずに動きます。
あと、私は人間です。岐阜市に、どれだけ人間がいるでしょうね?
そして事が終わった後、岐阜市が人の住める環境だと良いですね」
にっこり笑って、やるなら徹底的にやると宣言する。
こちらは岐阜市を占拠したいわけではないので、岐阜市がどうなろうと気にしない。
俺は村のトップなので、勝つ為にあらゆる手段を講ずるだけだ。その覚悟は決めている。
ただ、その責任は開戦を決めた浅野さんの物なので、後でどんな責任追及をされるかは知らないけど、頑張って責任をとって欲しい。
俺?
もしも村を守りきれないと思えば、カードに戻して三河の国に移動するよ。
そしてリセットやリスタートではなくコンテニュー。魔力は不安だけどカードから戻すだけだよ。
俺さえ無事ならば、こちらに人的被害は出ないわけだし。物的被害も地下施設に砦ぐらいだし。
俺があの村から逃げてしまい、相手に得るものが無ければ、責任追及は浅野さんに一本化されるよね。
どこまで責任を追及されるかちょっと見てみたいと思うけど、本当に負ける気はないし、もしもそうなったらどうなるんだろうな?
浅野さんは俺の発言に顔色を変えていた。
もしかして、同じ土俵で戦って貰えると思っていたのかな?
そっちに有利な戦いなんて、まともに付き合うわけ無いでしょうが。少しは考えようよ。