2-06 凱旋
20匹もの猪と言っても、うち3割ぐらいはまだまだ子供で、ウリ坊と言って良いかどうかは知らないけど、売れるところの少ないものだった。
なので、10数匹が今回の成果となる。
神戸町から人を出してもらうのを嫌がって夏鈴たちの手を借りたというのに、実際はこうやって頭を下げることになったのは、猪の集まり方が計算違いだったからだ。
俺たちは家の近くでも猪を狩るのに同じ手段を使っているけど、あっちでは良くて3頭しか集まらない。
ドングリを使ったとしても、猪が来る保証は無いのだ。
これは推測になるんだけど、ここはゴブリンの集落とかが無いから猪が増えたい放題なんだと思う。
森に加えて人の手の入った畑が良い餌場になり、駆除よりも増える速度の方が早いんじゃないかな?
一回、大規模に狩りをしたので、二度目の期待はもうしない方が良いと思う。ここまで集まるのは初回だったからだ。
間引きはしっかりできたはず。この地域の、猪の密度は下がっている。
ただ、半年もすればまた他所から流れてきそうな気もするけど。
そうでなければ、とっくの昔に全滅しているよ。
「創殿! さぁ、飲んで下され!」
「娘さん方にはこちらの果物が良いですかな? 採れたての春苺ですぞ」
猪狩りで大いに目立った俺は、神戸町で大いに歓待されている。
濁酒を持ち出し、多くの若い男が騒いでいた。
彼らの嫁さんだろう、若い女性もいるが、彼女たちは食事の準備で忙しい。
機械化と言う科学の恩恵が無いのだから、どうしても男尊女卑と言うか、男優位の社会になっている様子。
機械が無い世界なら、体が大きく強い男が優位に立つのは仕方がない。
男女平等は、男女が等しく働けるツールがあってこそ成立するのだ。
そして、その「男女が等しく働けるツール」の持ち主は男に交じって酒を飲める。
「ねえ、創君。創君は伊勢に向かう旅人なんだよね。何処かに定住する予定は無いの? ううん、何処かじゃなくて、この神戸町に定住するつもりはない?」
「国には帰る家がありますから。旅を終えれば家に戻りますよ」
「そっかぁ。残念だよー」
神戸町でも指折りの魔法使いである女性、蓮見さん。20歳かそこらの綺麗な人だ。
彼女は俺の接待役として、身を寄せるようにして隣に座っている。
ハニートラップ役としての役割も与えられたのか、俺への圧が強い。胸を押し付けるようにしてアピールしていた。
一緒にいる夏鈴たち三人が俺を主人として扱っているのは、見る人が見ればすぐに分かる事だ。
なら、俺を口説き落とせば残り三人もついてくるのだから、一番やりやすい俺への色仕掛けが行われるのも自然な流れだ。
そこそこの地位にある蓮見さんに手を出せば、既成事実を盾に結婚を迫られるんだろうね。
なんで魔法使いの蓮見さんがハニトラをしているのかは知らないけど、これで手を出すほど俺は飢えていないよ。
男尊女卑の色が強いという事は、性的な面、貞操観念に厳しくなる事もあるからな。女性の権利を認めるのではなく、女性を物扱いしてだけど。
俺の不興を買わないように、三人への接待は大人しいものだ。お酒を飲まさないようにしているし、無理矢理襲われることは無いだろう。
その代わり、俺には酒を飲ませグイグイ来るけど。
こうやって目立てば、わりと良い待遇を得られる。
どうせここには何度も来る事など無いんだから、女性関係とかで後を濁さない程度に、適当に楽しませてもらうよ。