20-3 岐阜市との交渉③
夏鈴の事は、相手も知っている。
夏鈴は、俺の事を知っていればセットで名前を覚えられるぐらいに一緒に居るからだ。
そしてある程度情報を詳しく知っている人であれば、夏鈴の背が低い事と、姿を現してからの数年、ずっとそのままという事も掴んでいるはず。
夏鈴が人間ではない、と言うのは、想像外だったはずだ。
数年も背が伸びないのだから背の高いエルフには見えず、女性でも髭が生えるドワーフでもない。
夏鈴の種族は一体何なのか、そんなふうに思っていることだろう。
「まさか、とは思いますが、夏鈴さんは都市伝説の、『ハーフエルフ』だったのですか?」
「いいえ、違います」
本格的な交渉に入る前の、軽い雑談は夏鈴の種族についてとなった。
相手も自分たちに有利になるような話題を考えてきたのだろうが、こちらの方がインパクトがあり、避けられない話題だった為、どうしても聞かざるを得ない内容だからだ。
人間外種族というのは、亜人種と言われるエルフ、ドワーフ以外には居ないはずだからである。
ハーフエルフやハーフドワーフという言葉は昔からあるが、エルフとドワーフは人間との混血の場合、必ずどちらかの種族になる。そしてその種族は大体が母親と同じ種族である。
ハーフ、両種族の特徴を持った人間はいないとされている。今までは。
ここでハーフ種族の存在が確認された場合、現在行なわれている棲み分けに大きな影響が出るので、浅野さんのように行政に関わる者であればまず見逃せないだろう。
現在の法律はハーフに対応していないだろうからね。
寿命が違う相手との婚姻などは、色々と大変なのだ。
「私達は、彼女らを『ゴブニュート』と呼んでいます。
見た目に関しては、見ての通り背が低くエルフと同じ尖った耳をしていること。
能力的に言えば、見た目以上に強く、魔法にも適性が高いことですね」
「え? ごぶにゅーと? ゴブ……まさか!?」
「はい。ゴブリンと人間のハーフであるデミゴブリンとは全く違いますが、その近親種ではありますね」
「嘘でしょう!? いいえ、あり得ない! ゴブリンによるそういった被害はこれまで何百件とありましたが、そんな事は一度として無かった!」
「違う可能性もありますが、目の前にある現実を否定するのも如何なものかと思います。
あと、気が付いているとは思いますが――」
「他にも大勢いるのですよね」
「ええ」
浅野さんは、さすがに頭の回転が速い。
元々持っていた情報にこちらの発言から推測できる情報を加え、多くの真実を言われるまでも無く理解した。
こちらからの明言は避けるが、これでゴブニュート村の住人がどんな立場か考えただろう。
人間は異種族を拒むことが多いのだから、迫害されたゴブニュートたちが集った村とか、そんなバックストーリーまで考えたに違いない。
これで人間を拒む理由を暗に提示できた。
あと、浅野さんは一瞬だけ俺の耳に視線を向けていた。
俺と夏鈴が結婚していること、結婚相手の俺が人間であること、一般的に人間の男がエルフの女と子供を作ればエルフが生まれるのだから、そういう事も想像しただろうね。
もしかしたら、ゴブニュート村は女権社会で、外の血を取り入れる為に人間の男を迎え入れているとか、そんな事も考え……ないか。
夏鈴は古い日本人女性的というか、男である俺の三歩後ろを付いて歩くとか、そんなタイプだし。
女権社会で育ってそんな育ち方をする事は無いだろうから、むしろ男尊女卑の風潮が強い村社会を想像するだろうね。
これが交渉にどんな影響を及ぼすのか。
周囲に聞いた浅野さんの性格とかから、先の展開を何パターンか予想してみたけど、上手くはまるかな?




