20-1 岐阜市との交渉①
戦争を回避したいのは、岐阜市の連中以外の共通した想いだ。
岐阜市の連中にしてみても、戦う意志が強いのは評議会ぐらいだと署長さんは推測する。
庶民にしてみれば、国内とは言え未開の地がどうなろうと知った事ではなく、敵対的でなければ別勢力が根を張っていようが気にはしない。
目先の利益と損害の方が重要で、交易などで利益がある事、戦争をすれば人的被害が大きい事を考えると、まず反戦に傾くだろうと言っていた。
自勢力でなければ基本は潜在的な敵でしかなく、別勢力は敵勢力として看做すのが普通なのだ。
政治家である評議会の議員たちにしてみれば、目の前の“別”勢力が脅威であるなら戦うのも已む無しと考え、100年の安泰を目指すだろう。
俺もそこには異論を挟まない。
逆説的に、俺も同じことを考えた所で責められる謂れは無いんだけどね。
こちらは少数勢力という事もあるし、自分たちからは仕掛けないという意味で、専守防衛をちょっと拡大解釈する部分もあるよ。
それぐらいは、見逃して欲しい。
「いえ。対人の基本は対話路線。そして協力しあってモンスターは殲滅する。人類は一致団結しないと、この厳しい世界で生き抜かないといけないのですから。
それが正しい現代社会ですよ」
……署長さん的には、見逃す気は無いみたいだ。
この人は一貫して平和路線というか、穏健派としての行動を固持しているので、その発言には結構な重みがある。
人命尊重、人類生存が判断基準のかなり上位にあって、個人の自由と権利についてはやや下の方にある。
まぁ、個人の自由と権利を保障しているのが国とか社会と呼ばれるものだから、あながち間違いでも無いんだけど。
「その“現代社会”って奴を守るためだとか、それは今回の話とは関係ないんじゃないっすかねぇ。
オジキの村を襲うって話と、現代社会を守るってのは、繋がりゃしやせん。騙されて軍を動かしてる馬鹿どもが居るってぇ話でしょう」
ここで署長さんにツッコミを入れたのはトオルだ。
彼は三河の国の堀井組から、俺とのつなぎ役として派遣された三下だ。
彼は大垣市に簡単な事務所を構え、俺が大垣市に来たときに俺の世話をしてくれる。
三下口調のモヒカンだけど、中身はかなりまともである。
俺という危険人物に物怖じしない胆力を持つだけでなく、物をちゃんと見ているし、頭は悪くないどころか良い方だと思う。
今回の件も、問題の本質を捉えた上で発言している。
「それで、交渉は何時頃できるのですか?」
「明後日ですね。準備は宜しいですか?」
「ああ、当然だ」
署長さんの尽力により、岐阜市がゴブニュート村を攻める前に、話し合いの場を設けることに成功した。
ここで交渉がまとまれば、戦争は回避される。それが誰にとっても最善の結果を生む。
硬軟織り交ぜ、上手く話を進めたいものだけど。
俺、そこまで会話が得意ってわけでもないんだよな。
準備は色々とやったけど、上手くいくといいなぁ。