19-26 従う意思はない
非常に面倒くさい話だけど、斎藤という国主は美濃の国にとってなくてはならない、優秀な国主だったらしい。
で、その優秀な国主が居なくなった、俺の村に捕らわれているかもしれないとなったため、軍が動く事になった。
俺の村に斎藤がいるはずもなく、全くの出鱈目なのだが、ゴブニュート村が美濃の国の所属でない事が話をややこしくしている。
簡単な話だが、信用されていないのである。
俺が美濃の国に隔意を抱き距離を取っているから、美濃の国は俺に対し隔意を抱く。
この距離感は相互理解を不可能にし、美濃の国が俺の行動に疑念を抱く原因となっている。
交流が無い相手など、周囲の人間次第でどうとでも見えるものなのだ。
ならば、対話と交流を試みるという方法もある。
相手が軍を動かす前に相手が信用する誰かを村に招き、俺たちが悪意を持って美濃の国に害をなすような存在ではないと証明してもらうのだ。
いきなり美濃の国、今回の場合であれば岐阜市と交流を持とうとしても上手くいかないだろうが、どこかの誰かが緩衝材になればなんとかなるかもしれない。
ただ、問題が一点。
美濃の国に組み込まれるかどうか、という話だ。
俺が「それだけは拒絶する」という条件を突きつけられるかもしれない。
相手にしてみれば自分の国の領土なのだろうが、こちらにしてみれば野生のゴブリンが占拠していたエリアと、毎年洪水が起きるエリアを確保しただけだ。
人手が無く管理しきれていない土地を「自分の国の領土だ」と言われても、納得できないという事かな。もし自分の土地だと主張するなら、村ができてから数年間も気が付かないのはなんでだよ、と言いたい。
それに、村を作るにあたって美濃の国の支援を一切受けておらず、国に組み込まれる謂れが無いと思っている。
そう言った諸々の俺視点な感情論を、緩衝材になってもらう予定の署長さんに話してみた。
村の情報については、今更である。
軍に攻められてしまえば位置はバレるのだし、開き直って開示できる情報は開示してしまった方が良い。
「言いたい事は分かりますが、それで岐阜市の評議会が納得するかと問われると、無理だろうとしか言いようがありません。
私もそのように判断しますね。それが、組織の代表ですから」
署長さんは、ゴブニュート村が美濃の国に組み込まれるのは、岐阜市側の絶対条件となると断言した。
俺が独立独歩を絶対条件とするなら、まず間違いなく対立し、武力衝突を招くと言い切る。
「私なら、軍を使わず交流で取り込む事を画策しますがね。村に人を送り込み、徐々に内部から切り崩します。創さんに女性を宛がうことができればそれが最善ですけど、そうでなければ他の誰かとでも構わないです。こちらの息がかかった誰かを伴侶にするよう働きかけます。
斎藤様も似たような判断をするでしょう。創さんを知っていますから。武力衝突のリスクは絶対に割けます。
ですが、これまで交流を持っていない他の評議員に同じ判断はできません。創さんを知りませんし、早く結果を出す事を優先するでしょうから、暴力的手段を使えば何とかなると考え追い返されるでしょうね……」
あと、戦争になれば自分たちが負けると諦めきった顔をした。
まぁ、負けるつもりで戦う気は無いので、攻められれば全力で応戦するのは確かだよね。
最悪、毒と病気をばら撒いて地獄を見てもらう事になるとは教えておく。
対策を取られたところでそこまで困らない話だから。むしろ、対策を取ってくれた方がこちらも楽になるから。
「戦争になったら、岐阜市を含む周辺一帯に、病原菌をばら撒く、ですか。
そうですね、そうやって具体的に脅していただいた方がこちらも楽です。ディアズ・オークをその為に確保してあったと聞かされれば、攻めるのも難しくなりますね。
別の意味で攻めたくもなりますが、その上で対話に応じるとあれば交渉のテーブルぐらいは用意出来そうです」
調べたいなら調べればいい。
斎藤がいない事を証明するため、村を見せる所までは許容する。
そこまでが、こちらの譲歩できるラインだ。
だからそちらも、村を美濃の国に組み込もうとするな。
戦争をするなら、美濃の国を亡ぼす覚悟でかかってこい。
この意志を押し通すため、俺は予測される未来、その先の行動を起こす覚悟を決めた。