19-19 闇の手①
帰ってくると、ホッとする。
ほんの数日、三河の国に行った感想はこれである。
やっぱり、自分の家だと思える場所は大切だ。
家のドアを開けると、かなり気が抜けると言うか、心の中で張っていた糸が切れる。
ここに「おかえりなさい」があるとなお良いのだが、残念ながら、今日は俺たちが言う側になるようだ。今回は留守番だった凛音や莉奈がいない。日中なので、仕事をしているのだろう。
旅装を解き、寛いでいると、二人の「ただいま」という声が聞こえた。
どうやら外で合流し、一緒に帰って来たらしい。
数日顔を合わせないのは仙台に行ったとき以来なので、出迎えようと横になっていた体を起こす。
玄関に行くと俺よりも早く、夏鈴が二人に「おかえりー」と言って出迎えていた。俺と違い、すぐ動けるようにしていたみたいだ。
って、ああ。夏鈴の能力で、いち早く帰ってきたのを察知しただけかもな。たまに忘れるが、周辺を把握する指揮官用の能力を持っているわけだし。
「二人とも、おかえり」
「ただいま」
「ただいまー。あと、おかえりー」
「ああ、ただいま」
凛音、莉奈、共に変わりはない様子だ。
たった数日だし、何があったという事も無いだろうけどね。
二人は俺の「おかえり」に対し返事をすると、旅から帰ってきた俺に「おかえり」と続ける。
俺も「ただいま」と返し、みんなで笑い合った。
夕飯の時に何か変わりはなかったか聞いてみたが、俺たちの周りは至って平和なようだ。
凛音は神戸町で魔法教室を開いているので神戸町に何かあればすぐに情報が伝わるし、莉奈は村の周辺で色々とやっているので、村に何かあればやはりすぐに分かる。
二人が問題無いと判断しているのなら、俺の周りは特に問題無いのだ。
だが、岐阜市の方では平穏と行かなかったようである。
「ジンから手紙が届いてる」
夕飯を食べ終わって、凛音から一通の手紙を渡された。
特に急ぎの印も入っていない、だが定期報告とも違う、ジンから送られた臨時の手紙だ。
急ぎの案件であれば凛音が開封しているが、臨時というだけだったので、未開封の状態である。
なんだろうと思い、ナイフで開けて中を読む。
「詳細不明の、嫌な雰囲気ね。
タイミングがタイミングだし、件の雄総が関わっている可能性あり、と」
岐阜市は警察署の元署長が主導したとみられる、国主の娘の殺人事件をずっと調査していた。
これは私的な怨恨もあるが、署長レベルの人間が暗殺者の頭領で色々とやっていたのだから、犯人探しは絶対に必要だからだ。
国の威信、警察への信頼を取り戻すための戦いである。
その成果が出たらしく、元署長の我妻に命令をしていた何者かに関する有力情報を手に入れたという発表があったのが、3日前。
そして一昨日に何かがあり、手紙が来たのは昨日である。
美濃の国の国主とはあまり付き合いを持ちたくないし、顔を合わせたくない。
大垣市の署長さんも守秘義務はあるだろうし、この件で話をするには不適当。
もう少し様子を見て、何かあってから動くかな。
ジンが不穏な空気を察知してるし、すぐに何かある気もする。あまり待つことはないだろうね。
こっちに影響が出るような事件じゃなければいいけど。