19-17 情報共有
堅苦しい兄弟盃の儀式が終わった。
神事――みたいな事、ではない――をするとは考えていなかったので、かなり疲れた。
多少トチったところで問題無いと言われていたけど、ああいった場面でミスをして、平然とそのままでいられるほど俺の心は強くないのだ。
「オジキ。ささ、一献」
「ああ、すまないな」
「そこは、当然って顔をして下せぇ。貴方は、堀井組のオジキなんすから」
一つだけ。これだけはと言われたのは、俺のしゃべり方と態度だ。
今後は目上の者になるという事で、堀井組の連中は勿論、それ以外にも尊大な態度で接し、敬語は基本的に使わないようにとお願いされた。
堀井組より上の俺がへりくだった態度をとれば、俺より下の堀井組は更に下となり、舐められるからだ。
態度を大きくして見せることで、周囲に「格の違い」を教えるのも上の者の役目、らしい。
組の看板を背負っている組長とは立場が違うのだが、「堀井組のオジキ」という評価はついて回る。
こればかりは仕方がないね。オジキの立場には色々と特典がある訳だし。
権利と義務はワンセットなのだ。
盃は交わしたので、もう村に帰っていいかと言えば、帰っていい。
だけど、せっかく海に来たので、少しぐらい海の物を楽しむ余裕はあっていいと思う。
夏鈴も、夜の生活さえしっかりとしていればうるさく言う事はない。
何日も滞在すると周りにからかわれる事も減ったし、お土産さえしっかり持って帰れば、皆もとやかく言わないだろう。
それに、だ。
堀井組というのは、割と戦力の整った組織だ。
俺たちが本気で暴れれば壊滅しそうではあるが、そこはあとで戦力を補充するとして。
カードで知ったドールの制作者、「雄総 潤一郎」の情報を共有する相手として、適切ではないかと思うのだ。
何の自衛手段も無い一般人相手には教えられない、危険な情報。
組長クラスであれば、伝えたところで何も起きないだろう。
直感だけど、組長は信用できる人間だ。清濁併せ呑むヤクザの組長なら、署長さんの時みたいな破局もないはずだ。
俺は堀井組そのものを味方に引き込みたいと考えている。
堀井組滞在から5日目。
覚悟を決めた俺は、重要な相談事があると、組長にアポを取った。
そしてその日のうちに、話をする約束を取り付ける。
「創さん。重要な話ってのは、どんな事だい?」
「去年、美濃の国で起きた、とある事件の主犯について」
俺は堀井組長に、岐阜市の元警察署署長「我妻 正義」から引き出した情報として、裏にいるのが「雄総 潤一郎」という情報を伝えた。
俺が我妻を拉致した事も教える事になったが、それぐらいは仕方がない。
俺の能力についてはぼかしているけど、敵の能力などは、分かっている事を大体伝えた。
「は、ははは。大した方とだは思ってましたが、創さんは俺の目では測り切れん御方だったようだ」
全部を聞き終えた堀井さんは乾いた笑い声を上げた。
顔が引きつり気味ではあったが、人間をモンスターに作り変えるとか、刺激の強い情報に頭を抱えそうである。人目が無ければそうしていたかもしれないね。
逆に、ようやく人に話せた俺はスッキリした顔をしていたと思うよ。