19-15 堀井組③
いつか、大陸への航海でも。
さすがにそこまで大きな事は考えていないけど、適当な、無人島になっている離島があれば、そこを占拠してしまおうかなとは考えている。
人がいないなら、俺が使っても問題無いよね?
瀬戸内海にある小島とかは漁師が拠点としていることも多いけど、そういった島であれば何らかの人工物もある。
なので、そういった人工物が見当たらなければ揉め事も起きない、はず。
船が入りやすいようにしてあった、とか、見抜けなかったら問題になるのは間違いないけどね。
逃亡先に海の向こうというのは、割と心引かれるモノがあるんだよ。
そんな構想は横に置き、夕方からは俺と堀井さんが兄弟となる、兄弟盃の儀式だ。
この盃事、親分である堀井さんが俺の下に付く事になるのだが、細かいことを言うと、ちょっと下に付くだけである。
盃事には対等な「五分の兄弟」、片方を兄とするがそこまで厳しい上下関係の無い「五厘下りの兄弟」、兄弟で明確に上下関係が出来る「四分六の兄弟」というのがある。
俺たちはの関係は“五厘下り”である。
あとは親子関係となる”七三”もしくは“二分八”の兄弟というのもあるが、それは今回関係無い。
兄弟なのに親子とは、これいかに。
組長が直接、盃を交わすという事で、昨日は早馬が各地に走ってチラシを配り、三河全土に散っていた幹部クラスが夜を徹してこの場に集まっている。
馬って、一般的にはそんなに長くは走れないんだけどね。乗り継ぎをしながらここまで来たようだ。
中には三河の端から来た人もいるようで、そういった人は頬が痩せこけていたよ。乗馬はカロリーを大量に消費するのだ。
ただ、そういったヤクザ関係者はなんとなく分かるのだが、それ以外の人もいるようだ。
「あの人、カタギだよね?」
「へい。今回の取持人としてきて頂いた方っす」
なんとなく、暴力と近いけど、堀井組とは少し違う雰囲気の人を見付けたので、トオルに聞いてみた。
そうすると、その人は取持人、要するに保証人のような役割の人だという。
言葉を変えると、堀井組と縁のある有力者って事だろうけど。なんだろう? ちょっと気になる雰囲気だ。
「どんな人かは分かる?」
「尾張の国の国主っすよ」
思わず、「はぁっ!?」って叫びそうになった。
何をしている人だろうと聞いてみたら、尾張の国の国主だと!?
三河国の国主ならギリギリ理解できるけど、三河とは敵対国の国主じゃないか。
「いやいや。クソムカつくのは前の国主っす。あの人はウチらの独立をさっさと認めて、戦争を終わらせた立役者っすから。俺らの中でも嫌っているのは少ないっすよ。
あの人だけは戦争では何度も勝ってたって話なんすけど、他が押し込まれてたから俺らが勝ったわけっすけど。あの人レベルが他にもいたらどうなったかわかんねーんですよね」
不公平な格差社会を作ったことで、尾張者を嫌っているはずの三河人だが、あの人単体は嫌われていないどころか一目置かれているらしい。
んー。
もしかして、そういう意味で、俺は嵌められたか?