19-9 堀井組①
堀井組との和解が成った。
最近は署長さんとの和解も成った訳だが、こっちは仲介無し、イベント利用無し、長期間の没交渉という違いがある。そして俺は関わっていないが、ニノマエが交流を持っていたという事実も。
こうやって素直に和解しようという気持ちになったのは、他の影響を考えずとも良く、完全に関係が断たれ、ゼロから関係が構築できるほど感情を整理する時間があった事が理由だともう。
余計な第三者が間に挟まればそちらに意識が行くし、わだかまりが残る状態で仲直りすると、無駄にぎくしゃくする。
このままなら、署長さんとより堀井組との方が仲良くできそうだ。
俺たちはあちらの受け入れ準備が整うまでの時間を考慮し、ハリモトさんが帰ってから10日後に移動を始めた。
今度は三河の国の関所で止められる事も無く、そのまま入国できたよ。
「軒先の仁義を失礼さんにござんすが、手前控えさせて頂きやす――手前、当堀井組十二代目堀井祐一に従う若い者で――」
純和風邸宅、武家屋敷か何かのような堀井組の組長宅に着くと、数人から任侠者の挨拶をされた。
本人らも意味をちゃんと理解しているのかは疑問だが、それでも型に嵌った挨拶をするというのは、それだけ上の教育が行き届いているということ。
俺のような客が組の本宅に上がらせてもらっているわけだから、教育がされていない若いのを人前に出すと恥をかくからな。そこは、手を抜かないのだろう。
そうして無言で頭を下げられたりしつつ、若いのに案内されて、組長が待つ部屋まで通された。
「親父」
「お通ししろ」
部屋の前。若いのが中に居る組長に声をかける。
中から組長の許可が降りると、ふすまが開かれた。
部屋の中には分厚い木製の机があって、座布団がその周りに置かれていたが。いたのだが。
組長は、俺を立って待っていた。
礼儀作法としては、目下の者が目上の者を待つときは立って待つ、というのがある。
そして、上座、ふすまから遠い方には座布団が無く、対等な関係を示すような置き方をしている様子。
ハリモトさんからは「対等な関係」という言葉を聞いていたが、ここまで本気とは思わなかった。
むしろこちらに対し、へりくだった印象すら受ける。
ヤクザとかはメンツにこだわる生き物なので、まさに破格の扱いと言える。
「こちらへ」
組長自ら座る場所へと案内されたので、素直に従う。
これはどういう事だろうね?
ただ、仲良くしようという話だけで済むのか?
今更ながら、罠にかかる以上の面倒事の予感がする。
本当に、今更だ。
さすがに、もう逃げられないよな……。