19-8 周囲の評価
俺に対し、微妙に隠しきれない怯えのあるハリモトさん。
彼の様子にいちいちツッコミを入れない。
「盃を交わしたい、ですか」
「はい。親父は、創さんと戦う気は無いと言っていました。
その信頼の証として、親父といっぺんサシで飲む機会を作ってはいただけないでしょうか」
堀井組の組長、俺と兄弟になりたいってよ。
現代日本のヤクザというと、ただの犯罪者集団である。
仁義とかそういう精神的なものは失われ、ただ金に対する執着だけで存在している連中と言っていい。
海外の害虫が日本に根付かないようにする役には立っていたかもしれないけどね。大陸系や半島系のロクデナシが大手を振って歩いていたことを考えると、どこまで効果があったかは疑問である。
だが、この世界ではヤクザは自治組織であり、公的機関に代わる組織だ。
暴力的ではあるものの、秩序を作る側の存在である。
実際、三河の国が独立する前、そっちで堀井組に世話になったという話を聞いた事がある。
あと、こういった組織と縁を持っておくと色々と役に立つし、下手な政府組織よりも信用できそうというイメージがある。
会ってみないと分からないが、おそらく美濃の国の国主よりはマシじゃないだろうか。
ちょっと考えてみたが、どちらかといえば前向きな考えが頭に浮かぶ。
「そうですね。こちらとしては、今後の堀井組とは良い関係を作れればいいなと思っています。
頼りになる友人がいることほど幸せな事はありませんからね」
「ありがとうございます!」
堀井組の本気、切り札レベルではないだろうが、わりと上位の戦闘能力を持っていただろう終を含むフリーマンは、既にこちらの味方だ。
彼らを召喚して使役していたサモナーはもういない。
仮に罠を張っていたとしても、食い破れるという自信はある。
だったら、ここは誘いに乗った方が利益が大きいだろう。
戦闘能力とかはともかく、それ以外の分野で俺より上の奴がいっぱいいるだろうし。
いざという時の引っ越し先候補を増やすためにも、三河行きはアリだと思う。
俺が色よい返事をすると、ハリモトさんは感極まったような顔で頭を下げた。
いったい、彼の頭の中で俺はどんなイメージなんだろうか?
あ。森に誘い込んだたくさんのモヒカン舎弟を毒煙で燻してから焼き殺し、毒入りの食事を出した宿の主人をブチ殺し、川を渡った先で追手を返り討ちにするような奴か。
うん。マッチョなハリモトさんでも怯えるのはしょうがないかな。
言葉にすると、俺の悪役ぶりが酷い。
その後、親父に吉報を直ぐ伝えたいと、ハリモトさんは逃げるように去って行った。
自業自得という気もするが、俺のイメージは最悪なようである。
間違っていないのだが、どうにも納得できない。
「そうですか。お出かけですか。うふふ」
「向こうで家を借りるか、まぁ、どうにかするから。その笑顔は止めような、夏鈴」
なお、外に出るという事で夏鈴の機嫌が悪くなりそうだったので、必死に説得した。
条件付きで許してもらったが、あちらには相応に手を借りる事になりそうだ。
夏鈴、普段は俺を立てる良い嫁なんだけど、特定案件に関しては完全に俺を尻に敷いているんだよな。
もうちょっと、ゆっくりしたい。