19-6 大雪②
雪かきで一番困る、雪を捨てる場所。
普通に火を用意すれば大量の薪や炭などを消費するので、俺が魔法で賄っていくだけで結構大きな手助けになる。
道路の隅に集めると言ったところで限りがあるし、上手くやっても道幅が狭くなる。
除雪は体力と、腰痛と、場所と。多くのものと戦わねばならないのだ。
力仕事だからと駆り出された男たちは、スコップを手に、汗を流して雪をどける。
そのどける距離が少しでも短くなると、どれだけ助かる事か。
こればかりは、経験者にしか分からない苦労だろう。
そして太平洋側の仙台市とかはともかく、日本海側は30㎝で大騒ぎする美濃の国を馬鹿にするような、1mや2m級の豪雪と聞く。
なので、越前の国とかは雪に埋もれているんじゃないだろうか?
久しく顔を合わせていないが、エルフの所に顔を出しに行くのもいいかもね。
……夏鈴の許可が下りれば。
「この魚の汁物、美味いな! 干物か?」
「いえ。寒い時期なので、ここまで急ぎで運ばせました」
「流石だな。こうやって美味いもんが食えるのは良いよなぁ。創はいい嫁さんを貰ったよ」
そろそろ暗くなってくる時間帯。明かりを灯すにも燃料がいるので、仕事は終わりとなって、雪かきをしていた男衆は集まって飯を食う。
炊き出しとして提供された夏鈴の汁物は、全体的に好評である。
中には魚が駄目な人もいるので、全員ではない。そういった人には別の女衆が作った汁物が提供されている。
ただ、滅多に食べられない海の魚は物珍しさで人を集め、パッと見は好評である。
炊き出しで用意されたのは、タラの切り身と白菜の汁物と、青魚のつみれをメインにした汁物と、猪肉とジャガイモを大量に入れたポトフモドキの3種類だ。
前者二つは魚のアラを焼いた物から出汁を取り、塩っ気を足したシンプルな料理だが、魚の鍋、汁物はそれぐらいでちょうどいい。
ポトフモドキは肉の旨味が良く出ているが、こっちはアク取りが大変だったようだよ。美味い事は美味いんだけどね。
この炊き出しに使われた食材のほとんどは俺の持ち出しであり、善意による提供である。
しかし人手は現地の知人、奥様方に声をかけて集めた。
汁物を盛る器は各自の家に用意を任せた。
なので、この炊き出しは俺一人だけが一方的に負担したという訳ではない。
みんなの協力によるものなのだ。
一方的に上から目線で施したわけではない。
熱い汁物を飲むと、体の芯から温まる。
俺は体をほぼ動かさない魔法担当だったが、火の傍にいたのでそこまで寒くはなかった。服も耐寒仕様のモコモコを着こんでいる。
ただ、それでも顔は冷たい空気に触れていたし、長時間外に居れば体温も下がる。
そんな時に飲む熱い汁物は格別なのだ。
そうやって俺は現実逃避をするが、夜も更けてきたし、そろそろ仕事に逃げる事も難しいので、現実を見ようと思う。
「で。ボランティアと称して雪かきをしていたあのモヒカン軍団は何なんですかねぇ?」
「さぁ? 三河の国から知人を訪ねてやって来たってぇ話だが」
三河に本拠を置く自称・自警団。堀井組の連中が、ここ、神戸町に大挙して押し寄せてきた。
要件は……ニノマエにいる、元堀井組の3人を訪ねて来たって話だけど、本題は俺なんだろうなぁ。