19-5 大雪①
ゴーレムの検証に使う魔力を溜めるのには時間がかかる。
腐っても☆は4つ。アイアンなら☆5つ。合成はともかく、ここから先の進化はちょっと難しいし、そこまで使う魔力の捻出はできないだろう。
やるなら、もっと他のところに魔力を使うべきだ。
そんなわけで別件に取り組みつつ、日々を過ごしていると、季節はいつの間にか冬になっていた。
「寒くなったら、温泉に入りに行くのもいいかも知れないな」
「村の露天風呂でも気持ちいいですよ」
「村のはなぁ。混浴の大浴場だし。ちょっと、避けたい」
寒いなら、温泉旅行も良いかもな。
そんな事を考えて、夏鈴に黒岩の里への視察と湯巡りを提案してみる。
あちらにも結婚の報告はしたし、ニノマエ経由で祝いの品、あちらで人気のある銘酒を頂いた。
なので、その返礼も兼ねての提案だった。
だが、夏鈴はどちらかと言うと外に出るよりも村から出たくないとばかりに、露骨にそれを嫌がった。
俺はちょっと気になることがあり、夏鈴のお腹を見る。
大きくなった様子はないが、妊娠初期ならそんな物かもしれないし、俺の観察眼では判別できない。
念のために確認した夏鈴のカードテキストには変化が無く、妊娠したとかそういった表記もされていない。
勘違いか。
そんな風に思っていたら、夏鈴が表情を変えず、しかしはっきりと分かるプレッシャーを俺に放ってきた。
ああ、うん。俺が積極的じゃないからできないって可能性が高いよね。外にでたらしないもんね。うん。
終とか、ヒューマンとゴブニュートの組み合わせなら子供はできる物だっていう実績があるから。種族を理由に「できません」は通じないよねぇ。
そう言えば、いくつかの温泉には妊娠に効果があるというモノもあったが、黒岩の里にある温泉の効能は何なんだろうな?
この世界では調べようも無いか。俺も温泉をカード化したいとは思わないし。
冗談でも、そういう効能がある温泉の話題は出さないでおこう。
軽い冗談のつもりで下手なことを言うと、日本中の温泉の効能を調査する羽目になりかねない。
わりとどうでもいい事だが、美濃の国はあまり雪が降らない。
振る時は一度にとんでもない量が振る事もあるのだが、基本的に年末年始の時にドカッと降って、あとはチラホラという事が多い。
これは岐阜県の南側、日本海側ではなく太平洋側というのも関係している。
何度もたくさんの雪が降るのは、北側にある飛騨の国の方だ。
「でも、例外もあるという」
「今年は凄いですね」
そんな美濃の国に、年の瀬前の大雪が降っている。
村は道に石を敷き詰めているので大きな問題になっていないが、むき出しの土は雪に埋もれたのを掘り出しても、雪解け水でドロドロになって最悪だ。
火事になりそうにない数ヶ所に『コンテニュティティ・ファイア』で雪対策をしているが、割と大変なことになっている。
「村はともかく、神戸町はどうだと思う?」
「多分も何も、より大きな被害が出ていると思いますよ」
地面の積雪量は、30cmぐらいだ。
成人男性である俺の膝が隠れるかどうかといったところ。
屋根の上の雪を落とさないと、家が雪の重みで潰れるかもしれないレベルである。
俺はちょっと考える。
助けに行こうと思うが、向こうで何をするかな?
何も考えずに向かってもいい事は無い。
あちらの状況を軽く予想して、それに合せた準備をしよう。