19-1 ドール
あんまり、この可能性は考えていなかった。
カードから得られる情報は俺の知らない事も含まれており、フレーバーテキストは俺以外の何らかの情報源から表記をしていると思っていた。
とは言え、引き出せる情報に限界はあるだろうし、ここまでの内容は想定外だったのである。
『アサシンヘッド・ドール』:モンスター:☆☆:小:3日
アサシンヘッド・ドールを1体召喚する。ドールは、正しく自我を持たない人形と化した者である。
『雄総 潤一郎』の記憶を転写され、自我が汚染されている。
岐阜市で捕まえた警察署の署長、こいつが何も吐かずとうとう死んだので、カード化してみた。
その結果がこれだ。
誰だよ、雄総潤一郎って。
知らないよ。
と言うか、記憶の転写ってなんだよ。
ヤバイ話満載じゃないか。
特にヤバイのが、種族。
ヒューマンじゃないよ、モンスターだよ。
記憶の汚染でモンスターになったのか、最初からモンスターだったのかも分からないよ。
ああ、頭が痛い。
「旦那様、この事は?」
「言えるわけ無いだろ。情報の出元を探られたくない。
署長さんにも話せないよ」
こういう重要そうな情報は、本当なら死蔵せずに拡散するのがセオリーである。
こちらの手札がめくられるが、死蔵したまま俺が死んで消える方が問題だからだ。記憶の転写とか自我の汚染とか、知らないと不味い、知っておいた方がいい情報だ。
然るべき相手に伝え、対策をとる方が正しい。
問題は。
「誰がどこまで信用できるのか、って話だよな」
「署長さんも、今となっては……」
この情報は、知っていると危険な情報だ。
伝える相手を選ぶ必要がある。
信用できても力の無い誰かでは、被害を広めるだけなのである。
そして、力があっても信用できなければ意味が無いのはい言うに及ばず。
敵かもしれない奴に教えてしまえば、こちらの情報を一方的に抜かれて不利になるだけだ。
俺がこの事を知っているだけでも危険なのである。
そうなると、信用できて自衛力のある人。
大垣市の署長さんが最初に思い浮かぶのだが。
「まぁ、今となってはそこまで信を置けないからなぁ」
残念ながら署長さんは、今ではそこまで信用してない。
仲直りしても、元通りになるには時間が必要だ。
嫌いな国主の件もあるわけで、すぐには相談したくない。
「見なかったことにするか、しばらくは」
「はい、旦那様」
誰かに伝えた方がいいのは確かだが、伝える相手がいない。
俺たちはせめて、いつか誰かが読めばいいと、紙に書いて残すことにした。
知っておいた方が良いことだけど、知りたくはなかったなぁ。
もっと平和な世界に行きたい。