2-03 猪を売る
「田舎から出てきたばかりで初めて大垣に来たんですけど。凄いですよね、いかにも都会って感じで。
今朝仕留めたばかりなので5000円ぐらいになりませんか、お姉さん?」
「そうでしょう! 美濃の国でも2番目に大きい街だからねぇ、大垣は。
確かに状態は良いけど4000円。これ以上は無理よぉ」
「田舎は木と土の壁で出来た家がほとんどですからね。
そうですか。では、それで」
「その分、こうやってお肉を持ち込んでくれる猟師は少ないのよ。田舎は貴方みたいな人が多いって話だから、ちょっと羨ましいわ。
はい、銀貨4枚ね。ちょっと擦り切れてるから、銅貨も付けておくわ。オマケよ」
商談成立。
適当にしゃべってみたけど、掴みとしては悪くない。はず。
俺は3倍ぐらい年上の、肉屋のお姉さんから銀貨4枚と銅貨3枚を受け取るのであった。
普通に街の中に入り、堂々としていれば特に問題はない。
けど、はじめて足を踏み入れた人の領域は、なかなか興味深かった。
俺の記憶は穴だらけ。いろんな部分が抜けている。
ただ、それでも一般常識レベルの情報は覚えていたし、アスファルトとコンクリートの町並みは覚えがあった。
足元を見ればアスファルトではないものの、ちゃんと舗装された道路。推定コンクリート。
周囲を見れば似たような素材でできた家と木製の家が混在し、最大5階建てくらいだけどビルもある。
江戸時代と近代の入り混じった、時代の読み切れない混沌とした光景になっている。
ただ、町の区画割りはきちんとしているので、都市計画などは国が主導し整理しているのだろう。まっすぐ伸びた大きな道は、現代日本でもあまり見かけないし。
俺の記憶にある街の光景には劣るが、それでも「人間の住む都市」と言われれば素直に納得できる光景だった。
ある程度、規模の大きい街とは聞いていた。
このあたりでは他にも美濃の国の首都・岐阜市があるけど、その他は小さな村ばかり。
大垣と同じく、日本を横断するのに通ることの多い国境、関が原でもここまでの規模ではないらしい。
お国自慢なので、話半分に聞いておいた方が無難かもしれないが。
俺は当面の活動資金を得るため、猪を持ち込んでみた。
その他の荷物も一人で抱えているので、肉以外も込みでだいたい30~40㎏ってところ。かなり重い。
大垣の直前で≪リリース≫したけど、道中をカード化で乗り切らなかったら潰されていたかもしれないな。
結果、食肉業者のところで4000円で売れた。
お金の単位が円である事に驚きはしたものの、紙幣は流通しておらず貴金属の貨幣だし、銀貨を渡されたのでちょっと突っ込みたくなったけど、自重した。
渡されたお金をマジマジと見てしまったが、こちらでは悪貨と良貨が混在しているようで、そこまで不自然な行動ではなかったようだ。むしろ確認しない方が間抜けという話。
あと、食い物関係の売り子の言葉を聞くと、一食当たり100円ぐらいが平均値の様子。
庶民向けの食事かどうかは知らないけど、4000円は40食分ぐらい?
1日の食事を3回と考えると13日分ぐらいの資金を得たようだ。それが高いかどうかは知らないけど。
あとは適当に買い物でもしてみるとしよう。
そこまで長居をする気も無いので、お金は使い切っても構わない。
そもそも、食う物には困っていないからね