18-21 頭の痛い話
結婚するとは、継続的な性行為と経済協力の事。
付け加えるに、「お家」の結び付きを作る事だ。
そんな訳で、周囲からエロ系統の話を振られる事が多くなるのは仕方が無い事なんだ。
男女混合ならまだ抑えられるが、男だけ、女だけになるとエロに関する質問その他が飛び交い、俺に対し「もっと頑張れよ」という視線が向けられるようになった。
いやもう、勘弁してください。
そんな弄りに耐えつつ、ここは平和な大垣市の警察署内。
こっちではそこまで親しい人がいない事もあり、俺は弄られないという平和な時間を得ていた。
「仲直りして良かった……」
「理由が酷すぎるので、私は素直に喜べませんね」
熱いお茶の入った湯飲みを手に、しみじみと平和を噛みしめる俺。
そんな俺に苦笑いをする署長さん。
ほぼ1年ぶりの会合は、そんなグダグダから始まった。
「それにしても、あの男は信用できない」
「まぁ、国主としては優秀ですけど。冷徹に過ぎるんですよね、家族以外には」
俺たちの話し合いは互いの近況から、国主の斎藤の話へと移っていった。
あの男にはどことなく信用できない人間のオーラが感じられるので、俺は奴を天敵の如く嫌っている。
もしも俺が猫であれば、「フシャー!」と毛を逆立てている事だろう。
アイツが悪意を持って俺に関わるなら、署長さんが止めようが確実に殺しに行くだろうね。
署長さんは、国主の事を優秀と認めつつも、他人の気持ちを無視する冷徹な男と評価していた。
実際、話術ではやり込められている俺も、その優秀さは認めるよ。性格が悪い奴の方がああいう事には強いわけだし。
味方に付けば非常に頼れる男なんだろうけどね。
俺の場合、あの男の事を本能的に嫌っている部分があるので、利益があると分かっていても相容れないと思う訳だ。
アレは、自分の勝利の為なら俺の命の事など駒の一つのように扱い、消耗する類の人間だ。
自分を盤上の指し手と自認し、味方を駒として扱う。目的の為なら、非人道的な手段も厭わない。
この性質。政治家としては、確かに天職と言えるものなんだろうけどね。
でも、消耗品扱いされる側としては、絶対に関わりたくないんだよ。
俺も夏鈴らをカードのユニットとして扱う場面もある。
けど、カードユニットは生き返らせられると言っても、身内と思うみんなには可能な限り死んでほしくないと思うし、無茶な作戦を立てたくはない。
みんなで「いのち大事に」なのだ。
斎藤とは、違う。
「どちらにせよ、あの人は何か仕掛けてくるでしょうねぇ」
「それが何かも分からないけどね」
あの男が、わざわざ俺と署長さんの仲を取り持った。
だったら、あの男は俺たち、俺に対し何らかの要求を突きつけてくるというのが容易に想像できた。
形式上の借りはある。
が、踏み倒せないほどでもない。
後は俺たちが「無茶な要求を受け入れざるを得ないような状況」に追い込まれないよう、注意するだけだ。
問題は、その「追い込まれる状況」がどんなものか分からない事。
まったく。頭の痛い話だよ。