18-19 披露宴④
俺が署長さんの手を取ると、周囲から歓声が上がる。
みんな、この手の綺麗な話が好きなんだ。
なんだかんだ言って、『勧進帳』のような話を好むものなのだ。
俺も、嫌いではないけどね。ただ、観客の立場でなら、見ていて楽しいというだけだけど。
これをお膳立てした国主には感謝の気持ちとして、10円玉禿が出来るように禿薬を塗ってやろう。
今後、もしも変な事に巻き込もうものなら、残りの髪も消えてもらうという脅しだよ。
俺は、やると言ったらやる男なのだ。脅しじゃないぞ。
せっかくの祝いの日に水を差した連中の事は意識から締め出す。
それ以外の人たちの相手をするべく、俺たちは会場をフラフラとする。
「夏鈴ちゃん、すごい衣装ですね」
「へぇ、フリルとレースをふんだんに使ってるんだ」
その中で主役は、もちろん俺――ではなく、夏鈴だ。
夏鈴は昨日の白無垢ではなく、ウェディングドレスを着ていたからだ。
こちらでは珍しいウェディングドレス。
人目を引かないはずがない。
特に、制作に関わった人からは大絶賛をされる。
俺? ごく普通のタキシードなら珍しくもなんともないので、特に何か言われる事も無いよ。
この手のイベントで男の俺が出しゃばっても良い事など無いので、地味でいいんだよ、地味で。
「いいなぁ、私もこんなドレスが欲しいなぁ」
「レースだけでもすごい値段だけど、全部でお幾らなのかしら?」
中には自分もウェディングドレスを着たいと言う人もいたけど、ドレス制作のお値段を聞いてほぼ全員がすごすごと諦める事になる。
特急のお仕事だったとはいえ、レースだけで100万円は払っているし。トータルは推して知るべし。手が出る方がおかしいとも言う。
それでも諦めきれない人は、目の前の現物を覚えて、自分で作ってしまおうと考える人たちだ。
そんな彼女たちは、夏鈴のデッサンを鬼の表情で描いている。
特に止める理由も無いので、他の人の迷惑にならない程度に、好きにさせるよ。
日本で行う披露宴がどんなものかは知らないが、こっちはひたすら騒ぐだけのイベントとなっている。
同じ釜の飯を食った仲間と言うが、そうやって身内の結束を固める場である。
この手のバカ騒ぎ、俺は割と好きである。
酒を飲み、大声で笑うのは気分が良い。
細かいことを考えなくていいし、難しい事は後回しでいい。
本当はもっと何か考えないといけないのかもしれないが、そんな事は知らない。この場を楽しめればそれでいい。
むしろ、普段はなぜ、あんなにも考える事が多いのか。
適当にやって、適当に笑っていられたら、それで良いのに。
そりゃあ、仕事は真面目にやらないといけないが、難しい事など考えなくてもいいじゃないか。
もっと自由に、気楽に生きていたい。
なんで、そんなことができないんだろうか?