18-18 披露宴③
俺は逃げようとしたが、周囲にどんな根回しをしたのか、逃げる事はできなかった。
こちらは不意打ちを食らった側で、相手は入念に準備をしてきた側だ。
状況は非常に悪く、披露宴におけるイベントの一つとして扱われてしまった。
おかげで周囲の視線が集まっている。
気まずい、と言うのが正直な感想。
和解とか、特に考えていないんだよね。大垣市に自主的な出入り禁止をしているけど、あんまり困らないし。
非はこちらにあると思うし、頭も下げられるよ。
けど、やったことに対しては胸を張るし、恥入る気持ちは無い。
同じ状況なら似たような対応をするだろうさ。直接的な殺しが間接的な殺しに切り替わるだけで。
結局、あの状況なら俺は「殺す」以外の選択肢を選ばないのだ。
「最近、先々で不良の更生をしていると聞きました」
「ちょっと人手が要るからね。まともそうなのであれば、それぐらいはするよ」
最初は来客対応の丁寧な口調で話していたが「昔のような喋り方で構いませんよ」と言われたので普通にしゃべっている。
隣の国主が「私相手では何を言っても喋り方を変えないのに」とかほざいていたけど、当たり前だ、馬鹿者が。
署長さんが話題に選んだのは、チンピラを魔法使いとして鍛え上げている、凛音の魔法教室の事だった。
一見さんお断り、基本的にこちらの拉致した人のみが入れるこの魔法教室、普通に魔法を学ぶよりも効率的に魔法を覚えられると評判だ。
こちら独自の魔法の応用も教えているので、外での秘伝に相当する知識まで教えるのかと驚かれている。
たまに「自分たちにも教えろ」と言い出す馬鹿も発生していて、こちらのマンパワーの無さを理由に追い返す事も多い。
実際は一期生が少し残り、教師役になったので、多少は人手不足も改善しているんだけどね。
「こう言う話を聞くと、創君はなんでも出来そうに思えますが、まだ若く、出来ない事も多いでしょう」
どうだろうか?
カードと言う応用性の広い能力を得てはいるけど、万能でもなければ制限もきついし、何でもできるは言い過ぎじゃないかな。
「今になって思い返せば、私は創君に要求するばかりで、何もしていなかった。そして、自分の要求に応えられない部分があると切り捨てた。
身勝手な話です。散々利益を得ておきながら、何もしてこなかったのですから。
あの時の一件は、私の方でどうにかするべき案件でした。それなのに全部押し付け、勝手に失望した。年長者として恥入るばかりです。
申し訳ありませんでした」
……周囲の視線は、「許してやれば?」という感情を多く含んでいる。
署長さんが発言を選んでいるため状況は掴めないだろうが、雰囲気で適当に話を膨らませ、彼らは妄想する。
後は場の雰囲気を察し、許し、許されれば綺麗に収まると、関係が修復されると、そのように思っているのだろうな。
いや。
俺が許すも許さないも、そんな話じゃないんだけどね。
やらかしたのは当時の俺であり、罰せられたのは俺。
だから、俺が許された事を受け入れればいいだけなんだ。
別に、意地を張る所じゃない。
署長さんと仲直りできるのなら、それは良い事なんだけど。
ただ、ね?
この仲直りが、国主の手柄になるのだけは、面白くないなぁ。
手配したのはアイツなので間違ってはいないんだけど。
自分の損得と感情を秤に乗せる。
それはすぐに仲直りしておく方に傾いた。
やっぱり、国主・斎藤は嫌いだ。
こっちの逃げ道を塞ぐように手を打ってくるから。
もしかしたら、あの仲違いもこいつの仕込みじゃないだろうかと邪推してしまうよ。