18-17 披露宴②
正直に言えば、祝いの席でこの2人の顔は見たくなかった。
厄介事を持ち込む奴と、厄介事に巻き込んだ相手。
例え祝いの言葉を置いていくだけでも、あまり、ではなく、全く嬉しくない。
「今回は私人として来ているので、お構いなく」
国主・斉藤は笑顔でそんな事を言っているが、本当に私人として来ていたとしても、粗略には扱えない。
俺はお寺の小僧さんに話を通して、さっさと隔離をする事にした。
未婚・既婚を問わず、女性らが国主の方をチラチラと見ているが、これは単純に顔が良いからだろうな。
そもそも、国主の顔を知っている人の方が少ないだろうし。
フリー参加ではなく、許可制にするべきだったかと考えたが、その場合はもっと面倒なことになっていた気がするので結果オーライ。そう言って自分を誤魔化す。
実際、許可制の場合は受付で騒ぎが起きていただろう。状況は良くないが、最悪は避けられたのだ。
なんでこう、面倒なことになるのかな?
これまでの行いが原因だろうね、分かります。
「その、久しぶりですね、創君」
「ええ。ご無沙汰しています」
あれから、大垣市には行っていない。
店を構えているものの、商品の補充は俺のすることではないから、行く必要が無い。
売り上げなんかもごく僅かな額を店舗の代金として徴収しているけど、10年で回収を終えられるように計算したので、月当たりの金額は俺にとって誤差のようなもの。意識しない程度の存在である。
回復薬の為に、その「俺が意識しない程度の額」を払っているであろう署長さんは、ここまで俺が足を向けないとは思っていなかったのか、ほぼ1年ぶりの顔合わせに戸惑っているようにも見える。
「2人が知り合いという事なら、こういった祝い事に呼ばないというのもおかしいでしょう?
何か事情があったのかもしれませんが、一度何かあったというだけで、いつまでも仲違いし続けるのも良くありませんよね」
署長さんを連れてきたのは、国主の方らしい。
署長さん本人には俺への隔意が残っているだろうが、無理矢理連れて来られたようだ。
どうにも態度の歯切れが良くない。
あと、国主の言っていることは分からないでもないが、全ての状態に適用できる話でも無いと思う。
喧嘩やいがみ合いをしない、適切な距離感をとっているだけ大人だと思うよ、俺たちは。
こちらとしては悪いことをしたなと言う思いがあるので顔を合せづらいし、署長さんも色々と言って縁切りを宣言したのだから自分から会いに来ることもできないだろうけどね。
けど、それならそれで事前にアポを取るなり、して欲しかったと思うよ。
「ははは。逃げられては叶わないのと、タイミングが合わなかったのと。
それに、こういった場の方が何かと都合が良いんですよ。
何も無い時に会っては言えないことでも、祝いの席であれば言えるということがあるのです」
こちらの恨みがましい視線に国主は笑顔でカウンター。
相手のダメージは無いが、俺への被害は大きい。
残念ながらこの手のやりとりでは絶対に勝てない相手なので、会話は最小限にしてしまおう。
客の一人に時間を使いすぎるのは良くないし。逃げるが勝ちだ。