18-16 披露宴①
暇人が来ればいい。
俺はその程度に考えていたが、実際には関わりのある人のうち、喫緊の仕事を抱えていない人がみんな来たようだ。
一部のお店は臨時休業にしてまでこちらを優先したようだ。
ここまで人が来るとは思っていなかったが、とにかく菓子を配り、酒を振る舞い、汁物を提供していく。
手洗いの為の中座と称し、裏でこっそりとそれらの追加も行った。
さすがにね、追加の客まで100人を超えるとは思ってなかったんだよ。
予想外の規模となったお披露目の席は、多くの人でごった返している。
大勢の前で俺たちが夫婦だと知らしめる目的で行っているとはいえ、多すぎだと思わなくもない。
俺たちのすることは祝いの席の参加者から祝福の言葉をもらい、それに笑顔で返すだけの、体力・気力・精神力をガリガリ削るお仕事です。
いや、ほんの数人なら嬉しいで終わるんだけどね。大勢から祝ってもらって嬉しい事は嬉しいんだけどね?
顔と名前が一致するレベルの知人や、知人の友人からまでお祝いの言葉をもらっても心から喜べないし、相手は自分の事を知っていても自分が相手を知らない時とかね、困るわけですよ。
ただ、着席した状態で客の応対をすると逃げられないし、こっちが相手の名前を呼んだかどうかで、遠くからからかいの声が聞こえたりすると、いたたまれないんだ。
数百人分のお祝いメッセージとか、紙に書いておいてもらえないかなと、本気で考えてしまった。
後で目を通せばいい、その方が楽なんだけど……こんな部分は効率化できないんだよね。それが誠意ってやつだから。
客の対応だけで数時間、途中に休憩を挟ませてもらったが、それでもギリギリの状態であった。
ガッツリ飯を食べる時間も確保できず、軽くつまめる軽食で空腹を訴える胃袋を宥め、乾く喉には薄めのお茶で潤いを与える。
飴ちゃんでも欲しいなぁ、そんな現実逃避をしていた俺は、客に笑顔を振りまき感謝する機械だったと思う。
俺よりタフな夏鈴すら、笑顔の裏で疲れ果てているのが感じ取れたよ。
「終わったなぁ」
「終わりましたねぇ」
本当は、祝いの言葉をもらう席はこの半分ぐらいの予定だった。
そしてそれが終わればお色直しということで、ウェディングドレスを披露するはずであった。
「ご主人。現実逃避は止めてくれ。まだ明日もあるんだから」
「……本当にやるのか?」
「本当にやるんだよ」
だけど今日はもう時間が取れなくなったので、明日もお披露目を続けることになった。ウェディングドレスは2日目用の衣装となったのだ。
お寺には悪いけど、急遽予定をねじ込み、引き続き会場の確保をお願いした。
葬式とかが予定に入ってないから大丈夫と笑っていた住職さんは、大物だと思う。
ただ、こうやて2日目が確保されてしまったことで、翌日は嫌な客までやって来る事になった。
片方は本当に嫌な相手だけど、もう片方は顔を合わせ辛い人だ。
美濃の国国主その人と、大垣市の署長さんの2人である。
初日だけであればここまでくる時間を確保できなかった2人は、予定外の2日目に神戸町まで足を運んできた。