18-11 結婚前夜①
和服の構造はシンプルなので、布を適当にそれっぽい形にしてから進化させ、『武者袴』『白無垢』を用意した。
白無垢については何枚も着物を重ねるのと、頭の上に載せる奴を用意するのに手間取ったけど、無事に完成したよ。
ウェディングドレスはね、透かし刺繍の用意が大変だった。
「どんだけレースを使うんだよ!」と、神戸町で雇った針子の女性陣が叫んでいたよ。
お給金を多めに出したとは言え、頑張ってくれてありがとう。
俺のタキシード? 適当ですが、何か?
作った直後の服はどれも☆2つだったので、布の品質を上げる形で進化させ、☆3つまで品質を上げた。
☆4つにするのは時間がかかりすぎるので、☆3つで抑えた形であるが、「一生に一度の晴れの舞台なので、手を抜くべきでは無い」とけっこう悩んだ。
最終的に妥協した理由としては、結婚そのものを先に済ませたら良いと思ったのと、ウェディングドレスの製作も大変なのと、あまり凄い衣装を渡しても夏鈴が恐縮しそうだったから。
理由としては、前の方が大きいかな。
もうね、自分で逃げ場を急いで無くさないと、逃げるからね、俺は。
爺さんらに報告したのも、話を広げて外堀を埋めるためであったのだよ。
これでもう、俺に結婚しないという選択肢は無くなったわけだ。
衣装やらお菓子やらの用意が終わると、結婚はカウントダウンを始める所まで日にちが迫っていた。
「これでご主人の独身生活も終わりだな」
「夏鈴さんの健康状態は良好です。無論、ご主人様もですよ」
俺の結婚という事で、ジンにも話をしておいた。
すると、ジンも結婚式に参加すると言いだし、どうやってか予定を空けて、神戸町にやって来た。
そんなわけで結婚前日、俺・終・ジンの男三人が酒を片手にチビチビやっているわけだ。
手に持つ酒は、派手に飲んで二日酔いにならない程度に、ちょっと薄めたお酒である。
それでも飲み過ぎには注意が必要だけどね。
「そういや、ご主人は夏鈴の事をどう思っているんだ?」
「大切な相手、としか言いようが無いんだよね」
話題はほとんど、結婚に関わる話だ。
酒の席の話だ。この中で唯一の既婚者、終のご高説を聞き流し、ジンも個人病院の受付といい仲だという話を肴にし、控えめに、適当に盛り上がる。
そんな中、終が興味本位でそんな話を振ってきた。
「お? あれ? 愛しているとか、そういう言い方はしないんだな」
「実際、愛してはいないから、嘘は言いたくないかな」
「ほえ!?」
終は俺が夏鈴との結婚を決めた事に対し、俺が夏鈴への愛を自覚したと思っていた様だ。
俺の返事に、変な声を漏らした。
いや、結婚って、確かに独占契約ではあるけど、愛が無くとも出来る事だと思うのだが。
そこまで意外かな? 俺はジンの反応を見る。
横目で見ると、ジンは普通に酒を飲んで、干した魚を摘まんでいた。
特に驚いてもいない様子だ。
「結婚してから育む愛もあるだろ? 俺たち、と言うか、俺はそれで良いと思っているよ」
「あ、ああ。ちょっと驚いたけど、ご主人ならそれで納得だな。ああ、びっくりした」
終は結婚と愛を結びつけて考える人だったか。
そういや、こいつは相思相愛の恋愛結婚だったな。
情熱的だな、と、俺は終の発言をその様に受け止めた。