18-10 結婚の準備
親代わりの爺さんに結婚予定の報告をした。
いつ頃の予定っだとか、そんな細かい話は詰めていないが、結婚するつもりでいる事だけは確定情報だ。
年内には報告したいと考えている事も含めて話をしていたが。
「いや、所帯を持つと決めたんだろう? それをこうやってワシらに話したんだから、それはもう結婚したって事だろうが。
お前ら、美濃の国の者じゃないし」
……あ。
結婚するというのは、どんな手続きが必要か?
流民に、そんなものは無い。
周囲に「俺たち、結婚しているんですよ」と話すだけである。
証明も何も、存在しない。
美濃の国の住人の場合は、役所に婚姻手続きの書類を提出するのだが、国を持たない流民にはそんな役所など無い。
むしろゴブニュート村の主である俺は、俺自身が役所であり、結婚を承認する側なのであった。
……役人とかいないから、通常の役所仕事は全部俺が担当であり、俺次第というオチが付いた。
全部現代日本の感覚で考えていたよ。
細かい話をするなら、庶民だと結婚式はやっても披露宴はしない事の方が多い。
そこまでの出費を許容出来ないというか、物がそこまで無いというか。披露宴に関しては合同で開き、大勢で祝う方が普通らしい。
これが国主レベルの権力者の嫡男になると、三日三晩の宴会らしいけどね。
20~30年に一回のイベントなので、それはもう盛大にやるらしいよ。
世襲制でも無いのに、派手な事だね。
国主本人は就任した時点で既婚なので、“国主の結婚を祝う”というのは普通に無理である。
世の中、大体そんなモンだ。
「結婚したからと言って、こっちじゃ特に何もやらないわけか。
んー。なら、俺の知っている古い風習に合わせるかなぁ」
結婚した夫婦の、嫁の実家が菓子を用意して配るという風習が日本各地にある。
嫁の実家が用意するから『嫁菓子』の名で呼ばれる菓子配りをしよう。
俺は夏鈴の親みたいなものなので、俺が用意しても『嫁菓子』で良いだろう。
……そこ。娘に手を出した鬼畜な父親とか、言わない様に。
嫁菓子は、夫婦の仲がいつまでも続く様に、割りきれない数で用意する物だ。
一般的には1セット7つで、これが一番縁起が良いとされる。
梱包などの手間を考えると、紙袋に7種類の焼き菓子でも詰め込んでおけばいいか。
他にも振る舞い酒を樽でいくつかと、餅まきもやるかな?
あんまり手広くやると大変だから、嫁菓子を配るだけで終わらせた方がいいかも。
場所の都合もあるし、どこでやるかとか、そんな話を爺さんに相談しておこう。
あとはなぁ。
白無垢と武者袴でも用意するか? 結婚式用の一張羅として。
ウェディングドレス?
俺のタキシードは良いけど、それを夏鈴に着させた状態で菓子を配るのは、さすがに違うだろう。
物にもよるが、白無垢の方がまだ軽くて動きやすいはずだ。
念のため、両方用意してみるか。
ドレスは作るのが大変だろうけど、ここで手を抜くっていう選択肢は無いんだよ。