18-8 仙台市の仕事ぶり
「そう言えば、里は『黒岩の里』と呼ぶ事になりました。
こちらで決めて構わなかったのですよね?」
隠れ里の命名だけど、それは仙台市にお願いした。
俺はこの先もいくつか里の名前を考えねばならず、今のうちに目的別の名前をストックしている所だが、外注できるところは外注してしまおうと、その様に考えたからだ。
名前をいくつも考えるのは、とても大変です。
格闘ゲームで一番大変なのは、技の名前を考える事と言われるぐらい、大変なのだ。
抜ける手は抜きたいと、心からそう思う。
で、『黒岩の里』の“黒岩”だが、鉄の読み方の1つ「くろがね」から取ったものである。
鉄とそのまま言うのは情報隠匿の観点から望ましくないが、それにちなんだ名前の方が覚えやすい。その様に判断された。
あと、この里に関しては温泉地という情報を流される事になり、偉い人の療養目的で使われるというのが偽装情報となる。
温泉地としての情報も一般には隠されるのだが、ある程度調べると、温泉地という話が聞けるのだ。
温泉は本当にあるので、嘘でもないんだよね。
現在の黒岩の里は、住居に鍛冶場関連、温泉、小さな雑貨店が存在する。
住居に関しては過半数が仮設住宅で、俺が用意した家以外はまだ建設中だ。普通に家を作るのは時間がかかるのでしょうがない。
今はまだ寒くないので大丈夫だが、もう少ししたら酷く雪が降る様になるので、急いで住居を作っている。
一条さんの話では、冬までに全て完了するという事だ。
「すでに建設済みの住居に温泉や鍛冶場があるので、暖をとるのには困らないですけどね」
この土地で生きてきた、現地人の一条さんが大丈夫というのだから、信用して良いだろう。
人員全てを家屋に回すのは作業工程上、無理がある。
だから沸いている温泉を排水するついでに、余った人員で里の中に温水を通してどこでも暖かくなる様な、用水路を引いている。
実際にどこまで効果があるかは知らないけど、確かに温泉地だとそういった事もやってたよな。
中には温水の川とかがある温泉地もあったけど、ここの湯量だとそこまでは出来ないし、やったら目立つからそこまではやらないけど。
けど温水の用水路を引くことで、この里を外から見ただけだと、普通の温泉地に見えるようにするわけだよ。
目立たず、温泉地っぽくする工夫でもあるんだね。
雑貨店に関しては、ニノマエの関係ではなく、仙台市からの出店だ。
ニノマエからは酒をはじめとした卸売りを行なうけど、店そのものは出さない。そういう契約である。
これも仙台市に売った利権の1つだ。
商店はこちらが仙台市に依存する形をとり、互いに裏切れない関係を作るのだ。
実際にはニノマエの行商部隊が動いているのでそこまで困る事はないのだが、俺たちが裏切りにくい関係を作るには、このような形の方が信用されやすい。
今は製鉄関連でこちらが優位すぎるからね。
黒岩の里は全体を見るとまだまだの部分が多いけど、それでも年内にはある程度形が出来る。
それも、俺の手を煩わせる事無く。
外部の協力者を作ると裏切りのリスクを孕むものの、俺の時間コストが大幅に減る。
手間をかけずに物が出来上がるのだ。
全てを他人に委ねる事は馬鹿のする事だとは思うけど、特に大きな理由も無く人の手を借りないのも、偏屈だと思う。
今後もいくつかの里はこうやって外部協力者を募り、作っていこう。
目標は、来年度中に3つかな?
今年は黒岩の里だけでいいや。仕込の準備もあるし。