18-7 なお、現状の隠れ里(仙台市)
リハビリは、1回2回で終わる物では無い。
1ヶ月2ヶ月と、長く続けるものである。
俺のリハビリは日々の生活の中に影響を与えるほど厳しい事はやっていないので、ほぼ日常生活の一部として取り入れられている。
皆でラジオ体操、そしてストレッチを行なう事は当たり前になっていった。
理由があって俺が不在でも、村では俺が不在のままやる人もいる様だ。
蓄音機もあるからね。
ラジオ体操が浸透した今、俺がいなくても問題無いのだ。
暑い夏が終わり、徐々に涼しくなっていく秋。
仙台に向かった夏の初めに、まだ時期ではなかったという事で見送った、いくつかの旅先料理を食べに出向いたりした。
そして、仙台市の近くに建設中の、隠れ里の様子も見に行く。
「へぇ。本格的に開発されてるね」
中陸奥の国、仙台市近くの隠れ里は、技術隠匿という意味で隠れ里だ。
仙台市には場所などを報告してあり、共同開発という形を取っている。
こちらはある程度先に開発を行なっていた事、鉄の生産が行える状態である事などを理由に、隠れ里の基本的な所有権を有している。
しかし、そこに仙台市を噛ませる事で開発の支援を依頼し、ドワーフの鍛冶師も引っ越しさせた。
それにより隠れ里の所有権は俺にあるものの、住民税などのいくつかの税収と権利が仙台市にも発生した。
今後を見越して協力していくなら、目先の利益、利権の譲渡は大事である。
仙台市はそこそこの人足と物資を隠れ里に持ち込み、開発を進めている。
場所は仙台市より西に行った所、刈田郡と呼ばれる地域の山の中だ。
近くには蔵王町があり、全く人気が無いわけではないが、地元住人はわざわざ山深くまで踏み込んでこないため、穴場になっている。
なお、この山々の近辺は温泉が湧く。
もちろん、温泉は整備させたよ。
俺はあまり気にしないが、それがモチベーションになる奴も多いからね。
「ああ、貴方が創さんですね。初めまして。
この山里の開発を仙台市から任された、一条といいます。以後、宜しく御願いします」
仙台市からは一条という40歳ぐらいの男性をリーダーに、50人ぐらいが送り込まれていた。
彼らは主に住居の建築と、ここまでの道の整備を行なっている。
行き来と住む場所。
それさえ何とか出来れば、後の物は自動で付いてくると言うわけだ。
まだ里の畑は小さいし、収穫量も期待出来ない。
だったら、食料などは外から持ち込んだ方が早いからね。
こちらもニノマエの人員を送り込んでいるし。
「それにしても、鍛冶場だけとんでもない施設が稼働していますよね。ここだけ別世界なのですが」
「その為の村であって、他はオマケの様な物だったんですよね。最低限があれば良い、そんな感じです」
「本当に最低限ですけど、逆に、その最低限が揃っていることに驚きを禁じ得ません。よく出来ましたね」
一条さんは建築関連の専門家らしい。
その専門知識で隠れ里の初期状態に違和感を感じた様だ。
まぁ、まともな建築手順を踏んだわけでは無いので、どれもこれも違和感の塊だろうけどね。
突っ込まれた所で、笑って誤魔化す。
すると一条さんはこちらの意図を察し、別の話を振ってくれた。
そのまま二人でしばらく会話を楽しむ。
互いの身の上話をする中で、結婚の話題にも触れた。
「そういえば、創さんは結婚なさっているんですか?」
「いやぁ、結婚を考えている人がいる、と言う状態です」
現状、夏鈴との結婚は表の話題に出てこない。
が、完全に流れたわけでも無いので、俺はその様に切り返した。
一条さんはチラリと夏鈴の方に視線を向けると、意味ありげに微笑む。
「結婚は良いものですよ。家族のためなら何でも出来る、なんて言いますしね。
結婚したら教えて下さい。何か送りますよ」
彼は深くは踏み込まなかったが、こちらの関係はなんとなく理解したらしい。
実に楽しそうな顔で俺を見ていた。