18-5 身体の違和感②
岐阜市には、女装して入った。
俺の身長は普通よりやや高めで、180cm近い。
だが、それぐらいの身長なら女性でもちょっと珍しいぐらいで済むから、疑われることは無かった。
逆に、夏鈴には弟として男装して貰った。
姉弟設定なので「お姉ちゃん」と呼ばせたかったが、夏鈴の強い反対を受け「お姉様」と呼ばれることに。
どうやら夏鈴にとって、俺の呼び方は何でも良いが、様を付けるのだけは絶対の様だ。
……「お姉様」と呼ばれた時、自分はどんな顔をしていただろうね?
そんな俺の女装は横に置き、ジンの所にやって来た。
ジンの勤める病院は、特に専門を持たない総合病院ならぬ何でも屋的な扱いである。
総合病院だと専門家が複数いるものだけど、ここには大体のことに対処出来るジンがいるだけだからね。総合病院は名乗れないらしい。
一時期はディズ・オークの影響で患者が多かったが、今では落ち着いており、特に待たされることなく診てもらえることになった。
「ご主人様。何ですか、その格好は」
「顔が売れているからね。バレない様に工夫してみた」
「違和感が酷い……」
ジンは俺を見ると、女装した俺にどこか嫌そうな顔をした。
女装した俺は、ジンの目には骨格などに違和感があるらしく、女物の服を着てもあからさまな「男」としか思えず、かなり気持ち悪い存在に映る様だ。
夏鈴らからは「問題ありません。お似合いです」と褒められた女装でも、ジンには不評なのでさっさと着替えさせて貰った。
帰りについては、居たことがバレたとしても問題無いので、もうこのままでいいだろう。
俺は自分の肩の動きがおかしい事を伝え、どこか変ではないかと確認して貰った。
「では、右腕を地面に対し水平にして延ばして下さい。
はい、そのままゆっくり、上に持ち上げて」
ジンの指示で俺は腕を動かす。
その時々に肩とその周りを触られ、筋肉の張りなどを診られる。
そうして、ジンは結論を出した。
「動かない、と言うのは気のせいですね。特に問題は無いですよ」
筋肉や骨格に異常は無いと、断言した。
「ただ、何かを庇う様に動かしているようですね。動かせないのは、そこに負荷がかからない様にするため、無意識に「ここまでにしておこう」と頭が判断しているようです。
最近、何かありましたか?」
「いや、特に何も無かったよな。そうだよな、夏鈴?」
「はい。大きな怪我はありませんでした」
「……おかしいですね?」
俺たち三人は、揃って首をかしげる。
状況は分かった。だが原因は不明。
いや、心当たりはあるか。
「自分の思い出せない記憶を、無理に思い出そうとしたのが原因かもしれない」
「ああ、成る程。庇っていたのは、思い出せない頃の話ですか。
もう身体に問題は無いので、普通に動いて良いですよ」
「それは分かっているんだけどなぁ」
自分の思い出せない記憶の中で、右肩でどこかを庇っている可能性。
何かがあった、と言うことだろう。
ジンもそれで納得したが、すぐに俺の身体に異常が無いこと、普通に動かした方が良いと助言をくれた。
意識して動かすことは出来るはずなので、徐々にで良いから慣らしていくべきだと。そうしないと、変な癖が付き身体を壊すと。
医者の言葉なので、素直に頷く。
俺の身体に残る違和感は、心理的な物だが細かい原因が分からない。
だが、放置は出来ないので、言われたとおりリハビリをして違和感を無くすしかない。
「体操とか素振りとか、そこからやった方が良さそうだ」
久しぶりにラジオ体操でもやるか。ラジヲ体操ではなく。