18-1 ヘタレ、動く①
主人と同世代の者は、主人よりも先に結婚してはいけない。
田舎ではごくたまに見られる話である。
都会だと、割と多く存在するルールである。不思議な事に。
なんでそんな話があるんだとか、なんで都会の方が多いとか、そういうのはどうでもいいので横に置く。
ニノマエの店長を始めとした彼らは、俺が結婚するのを待っていたようであった。
「大事な事だから確認するよ。俺を理由に、結婚を待たせている女性はいないよね?」
俺は従業員一同をぐるりと見渡す。
すると、2人ほど僅かに視線を動かした。『ヒューマン・スレイブ・パーティ』の連中だ。ギルティだろうな。
逆に、「彼女なんていねーよ」「良い出会いが無いのよね」と気落ちする者もいた。
そんな彼らは町で雇った者たちであり、こちらは最初から結婚していたか、相手がいないという事で独身貴族になった方々である。
さて。
こんな時、店のオーナーである俺はどう対応するのが正解か?
俺の結婚は必須だろう。
それをしないと区切りを付けられない奴が多そうだ。
そして、自身を結婚という人生の墓場に送り込む理由があるなら、その後押しでケジメをつけてしまえと言う思いもある。
たぶんも何も、俺は恋愛に関して淡白と言うか、恐怖心のようなものを抱いているヘタレなのだ。こんな都合の良い理由があるのだから、それを燃料に突っ走るしかない。
夏鈴の動きを待っているというのは、男としてどうかとも思うし。
そこで決意を決めようとして、気が付いた。
俺が「結婚してくれ」と言ったら、夏鈴に断ることができるのか、という事に。
カード能力とか、まぁ色々と俺は命令できる立場なわけだ。そして夏鈴とはずっと一緒にいたわけで。
断れないのだ、夏鈴は。
対等な関係ではない。
だから言い難かったのだ。
気持ちの問題がどうであれ、俺の言葉が絶対だから、相手が拒否したくても押し通せてしまうというのが嫌だから。相手に断る権利がある中で、相手にプロポーズを受け入れて欲しいと思っていたのだ。
対等な関係で結ばれたかった。そういう事だ。
「終。何とかならないかな?」
「無茶を言うなご主人。
あと、俺が嫁と別れろって言ったら、ご主人相手でも切りかかる自信があるぞ。そこまで心を縛られちゃいないし、気にし過ぎじゃないか?」
「でもなぁ……」
「なんだかんだ言って、夏鈴の気持ちは察しているんだろう?」
「相手が絶対に断れないところに追い込んでいる時点で、もう嫌な感じなんだよ……」
「面倒臭ぇ」
男同士、終に自分の気持ちを吐露する。
酒瓶片手に、ツマミを口に。終の部屋に押しかけた俺は、彼に情けない相談をしている。
沈んだ気分を持ち上げようと、コップの中身をちびちび飲む。
一気飲みだと酒の味が分からなくなるし、勿体ないからできやしない。カード化された酒は増やせるけど、だからと言って雑に扱っていいわけではないのだ。
相談する情けない俺に対し、終はものすごく嫌そうな顔で応対している。
自分でもヘタレているというか、結婚を美化しすぎというか。どうでもいい事に拘り、動けないでいるのだからしょうがないけど。
けど、そんな雑な扱いをされる事が、カード化による強制的な心変わりが無いと感じられ、嬉しかったりするのだが。
「夏鈴はご主人と今までずっと一緒で、断ったら一緒に居る事が苦痛になるから受け入れざるを得ない状況にある。
言いたい事は分かるけど、それだといつまでも動けないだろ。気にするなよ、ご主人。
いや、気にしてもいいけど、動け」
相談に区切りがつくと、このまま寝てしまいたい気分になるが、終に尻を蹴飛ばされ、自室に戻ることになった。