14-25 魔法使いの話と
「あれ? 蓮見さん。何やってるんですか?」
「何って、魔法を教えてもらっているだけよ。あと、この間結婚したから、今は藤川よ」
あれから、凛音は神戸町に留まる時間が増えた。
俺が村に帰っても、凛音はずっと町に居るのだ。
魔法使いの教育が終わる、次代に引き継げるようになるまではそうするらしい。
莉奈もなんだかんだ言って村にいる時間が多いので、俺の御付き三人娘は、今では夏鈴だけが隣にいる状態である。
村での仕事の合間、俺が凛音の様子を見に神戸町に足を伸ばすと、チンピラに交じって蓮見さん――結婚して藤川さんがいた。
藤川さんは現役の魔法使いであったが、なぜか凛音の初歩的な魔法教室に通っている。
「いや、初歩的って言っても、私の使えない魔法も教えてるから。使える魔法でも、こうやって他の人の使い方をじっくり聞くとか、あんまり機会が無いから。
ちょっと感覚的な言い方が多いけど、かなり勉強になるわよ」
藤川さんはそう言うと、指先に火を灯す『リトルファイア』から冷たい風を送る『フリーズブリーズ』へと、魔法を繋げて使う。
「熱くする魔法の後に冷やす魔法を使おうとすると使いやすいとか、同じ種類の魔法は連続して使うと使いにくくなるとか、知らない事も多くあるわ」
いくつかの魔法には相性があり、組み合わせで使いやすくなるパターンが存在する。
俺と凛音はそういった組み合わせをいくつか見付けており、ちょっとした小技として重宝していた。
しかし、どうやら凛音の教える魔法の小技は、一般的でなかったらしい。
大都市レベルになれば魔法使いの数も増え、そういった小技も見つかっていると思うのだが、たぶん独占すべき有益な知識として隠匿されているんだろう。悲しいね。
犯罪者にまで有益な知識を獲得させないって意味では正しいのかもしれないが、それを言い出すと国の中にも腐った奴はいるわけで。結局大差ないと思う。
隠匿するより公開して、全体の底上げを行うべきと思うのは、甘いのだろうか?
まぁ、どれも俺の勝手な推測に過ぎないし、もうこうやって教えてしまったわけだが。
神戸町について最初に凛音の様子を確認した後は、ニノマエの店に足を運ぶ。
物資運搬などが無くとも、店の様子を確認しようと思うのだ。
「オーナー!」
店の方に顔を出すと、ある程度近くに行った時点ですぐに従業員の男性が俺に声をかけた。
俺に気が付くのはたいがいカード化されてる主要スタッフなので、気が付くのは当たり前なのだけどね。中々素早い反応である。
ただ、その従業員はどこか慌てた様子であった。
何かヤバイ案件があり、その解決策が無いところに、何とかできそうなカモがネギと鍋を背負ってきたのを見つけた様な雰囲気である。
厄介事の臭いがプンプンする。
しかし厄介事と分かっていても、彼は俺の店の従業員である。面倒だなんて言っていられない。
「何があった?」
緊急事態なら、早く対応をしないといけないので、まずは状況の説明を求める。
「店長に、見合いの話が出ています!
岐阜市の議員からです!」
そう来たか。
俺は新たな厄介事に顔を歪ませるのだった。