17-23 チンピラ教育
話し合いをしたからと言って、すぐに何かあるわけではない。
ちょっかいをかけられたら、という「何かあった時の対処法」は備えであって、自分たちから仕掛けるような行動ではない。
備えというのは、必要な時が来るまで埃をかぶっているものだ。
まぁ、すぐに出番が来る事もあるのだが。
「すんませんっしたー!」
「「「すんませんっしたーー!!」」」
大垣市から流れてきたチンピラ10名。
ニノマエで店員に因縁をつけて、値引きしろと暴力的な脅しを仕掛けてきたのでボコボコにした。
フラグ回収は速攻だった。
ニノマエの店舗は、フリーマン3人を含めそこそこしっかりした警備体制を敷いている。
店を用意したもう何年も前からそうやって守りを固めているので、最近は襲ってくる奴が出るなど非常に珍しい。
そういった事を知らない外の人間も、普通はそこまで無体を働かないものなのだが。
「ちょっと小遣いくれるから、店の者を脅して少し安く買ってこいって言われたっす!
サーセンっした!!」
なんでこの手のチンピラは未だにチンピラ語というか、三下口調なんだろうか?
そんなどうでもいいことを考えつつ、処遇を決める。
頼まれた、と言うが、相手の外見はスーツに七三の男と言うだけで、取り立て特徴を覚えてもいない。身長は俺よりやや低めで170に届かないぐらいだったと言われても、それで誰か判別ができるほどの情報は無い。
とりあえず、俺が過去に大暴れした事もあって、子飼いではなく外注を使う事で身を守るようになったみたいだ。
発注元は相手が分かり次第潰すとして、こいつらをどうするか?
「どうでしょう? 要らないのではありませんか?」
「だよなぁ。組織とかじゃないし。目的から外れるよね」
練習という事で、こいつらを使いこなしてみようかと思ったが、こいつらは組織と言うか、ただの集団である。
集まり騒ぎはするが、暴走族とかのように迷惑行為をするだけで、組織として働いているわけではない。こいつら、普段は実家で冷や飯食いである。
チンピラらしくカツアゲなどはしていたようだが、女を襲うとかそういった事はやっていなかったようなので、その点はいいんだけど。
集団を組織に変えるなら、まずは働き口を探さないといけないんだよね。出来ればニノマエ以外で。
ぶっちゃけ、彼らに職を斡旋するとか、起業させるとか、そんな手間をかけられるほどの意義が見いだせない。
二人で「要らない」という結論を出そうとすると、凛音が俺の服を引っ張った。
「要らないなら、貰っていい?」
「何をするんだ?」
「魔法の練習をさせる」
この世界、生産性が低いせいで、魔法使いが非常に少ない。
凛音はそこに目を付け、衣食住をこちらで提供する代わりに、魔法の練習をさせ、魔法使いの一団を作りたいと言い出した。
「魔法は気合。根性があるなら、何とかなる。覚え始めは馬鹿なぐらいでちょうどいい」
彼らの中に才能でも見い出したのか。凛音は任せろと自己主張をしている。
ふむ、と一考し、夏鈴を見る。
夏鈴は無言で頷いた。
「よし。じゃあ、任せる」
「大船に乗ったつもりでいて」
やりたい、というなら特に反対する理由もない。
彼らは凛音に預けることにした。
拒否権?
無いよ、そんなの。