17-21 殺さない解決策
夏鈴からは、武力による交渉の重要性を懇々と説かれ、自分の考えが理想論に偏っていた事を思い知らされた。
「署長さんが創様と袂を別ったのは、殺してしまった事が一番の理由だと思いますよ。
武力行使ののち、交渉するというのは相手が生きているという事ですから。没交渉、相手の言葉に耳を傾けない、文字通りの“話にならない”から、危険視されたのでしょう。
私たちとしては、“大垣市との交渉”をまとめるための一手という認識でしたが、署長さんにはもっと個別の視点で、小さく考えなければいけなかったのでしょうか? 殺さず、生かし、従順に飼いならすぐらいの度量を持ってほしかったのかもしれませんね。
私たち、強いですから。それが出来ると考えていたのでしょうね」
あの時は、夏鈴も俺の行動方針に賛成していた。
なので、当事者として自身の判断ミスを反省しているようだ。
その方針を掲げたのは俺だから、夏鈴の反省は俺の自省すべき点でもある。
もっと上手くやれたかもしれない。あの時の俺でも、もう少し上を狙えたはずだ。
そう考えて、次に活かそう。
俺はまだ生きている、先があるからね。
では、方針転換を図ろう。
「武力行使をしない」ではなく、「殺さずにおく」という方針だ。
具体的にどうするか、その為のプランは定まっていない。
「なぁ、ご主人。それなら、敵対してきた奴らの親玉をボコボコにした後、そいつを子分にすればいいんじゃないか? 逆らえば殺すぞ、って」
「子分?」
「そうそう。前に、どっかの組織を裏で操る黒幕に、みたいな事を言ってなかったっか? そんな感じだ」
だが、この方針に切り替わった途端、終が意見を1つ出す。
昔、少し考えたけど、採用しなかった方針だ。
「それだと、末端まで制御できなさそうだし、悪い事をやっている組織を乗っ取ったところで俺まで悪い奴になるからな。気乗りしないね」
「末端までって言うなら、乗っ取るのは制御できる程度の組織までにすればいいんじゃないか? 一番上じゃなくてさ
あとは悪さをさせなければいい」
俺の反対意見に、終はすぐさま解決策を提示した。
そう言われれば、一考の余地はあるように見えてくる。
「夏鈴」
「相手を生かしておく、と言うならば選択肢としては間違っていないと思います。
殺さなかった場合は、自分達の内に置くか、外に放すことになります。
放逐するならば心を粉々にしますが、手間がかかります。
内に置くならそこそこに心を折った後に、監視の目を設ける手間がかかります。
使えそうであれば、手間をかける利点もあります。相手次第と考えればよろしいのではないでしょうか?」
夏鈴にも意見を求めるが、彼女も肯定的な返事を寄越した。
相手による。そう言われれば確かで、その通りと納得した。
「なら、終の意見をベースにしよう。
残す相手の基準と、その上限下限を決めておこう」
話が纏まったなら、細かい部分を詰めよう。
完全に先を予測することは無理でも、大枠、基本的な考え方を決めておけば、いざって時に動きやすいし、組織の行動がまとまる。
ま、敵対者がいない方がいいんだけどね。
それはどう考えても無理だし、現実を見て動くとしましょうか。