17-20 遠交近攻
「――と、いう訳で、武力を用いない自衛能力を得るにはどうすればいいのか考えてみたい」
「無理じゃないですか?」
「武力じゃなくて、魔力で?」
「分かりません!」
「考えるのは任せる。俺は兵士だからな」
武力に依らない自衛。
相手に何かされても身内に被害を出さず、こちらの要求を通すような手段。
その相談一発目から、話し合いはグダグダだった。
夏鈴は早々に無理と言い切り、凛音は魔法――結局は武力――でどうにかする方に意識を向け、莉奈と終は早々に考える事を投げ出した。
全否定である。
「創様。武力は交渉における最低条件ですよ? 交渉は武力の誇示が第一であり、最低条件です。武力に頼り切らない交渉能力と言うなら構いませんけど……武力を用いないというのは、理想論に過ぎないでしょう」
夏鈴は言い難そうに、それでも言うべき事をはっきりと言い切った。
まずは戦って勝つことこそ大事だと。
「経済的な勝負を――」
「武力で奪われて終わりますね。そもそも、経済規模が違いすぎるので創様抜きでは勝負になりません」
なけなしのアイディア、経済的にどこかの分野に食い込む事を提案するも、一蹴された。
相手が武力を行使すればそこで終わり、そもそも経済で勝つには人口差という大きなハンデが存在する。
技術的に、何らかの特殊技能で勝負と思った。
晶石系アイテムはゴブニュート村でしか作れないはずなので、晶石を売りに出す事で美濃の国と交渉ができないかと考えたのだが。
夏鈴は武力抜きではそれも難しいと指摘する。
「創様は国連のある時代を前提にしていますが、今はそんな時代ではありません。
連絡網も馬が最速の世界なんですよ? 私たちに何かしたところで情報はさほど広まらず、もし広がったとしても、国内にいた未開の一部族を潰したというだけで非難されるという事は考えられません。
武力行使をしてでも欲しいものを見せつけてしまえば、戦う事になるでしょうね。
――創様がいなくなってから」
夏鈴は、俺が生きて動けるうちは大丈夫だろうと推測をする。
しかし、俺という守りが無くなった後、どうなるかは分からない。普通に蹂躙される可能性を指摘した。
俺の戦闘能力は高くないが、戦争における有用性は破格と言っていい。
補給能力においては、少々時間がかかるものの、数千人単位の食料と水を賄えるほどである。
増やし続ければいつまででも物資が続くというのは、間違いなくチート能力である。
こんなのが居る国と戦いたい奴は、まずいない。
だが、個人の能力にすぎず、継承できないのであれば、そんなチート野郎が居なくなってから攻めればいい。
俺がいる間にどこまで守りを固められるかは知らないけど、下手をすれば周囲一帯が敵になり、詰んでしまう。
結局は、戦争が起きうると考えつつ、足場を固めないといけないのだ。
「まずは周囲への存在アピールも必要ですよね。政治で戦うなら、味方を作らないといけません。我々の存在と、その価値を知らしめる必要があるでしょう。
ですが、今の段階で我々の存在が露見した場合、どうなるかも分かりません」
夏鈴は、俺たちの立場の危うさを指摘した後。
「しかし、こちらに攻められない、中陸奥のような遠国から順に仲良くするのであれば、可能でしょうね。“遠交近攻”ですよ、創様」
当面の方針を打ちたてた。