17-18 潜在的な敵
水無瀬少年は、俺が店長の歓待を受けている所に来てしまった事に顔を強張らせたが、すぐにまた動き出した。
「話しておきたい事があるんです。大事な事なんです!」
かなり真剣な表情で、俺に話があると言い出した。
「この間、美濃の国の偉い人が僕に話を聞きに来たんです。仙台の事で、探られてます」
どうやら、また厄介事がやって来たようだ。
俺と美濃の国は、基本的に対立関係に限りなく近い、同盟関係のようなものである。
表面上は敵対していないのだが、裏で俺が攻撃されているような状態である。
自由に生きたい俺と、俺を従えたい美濃の国。
相性の悪さについては折り紙付きだ。
個人的な信頼関係、かつての署長さんのような縁があれば多少は手を貸したいと思えるのだが、今の俺は神戸町以外を切り捨てられるような精神状態であり、味方とは言い難い。
強いて助けようと思うのは、カード化解除されたゴッドハンド、ジンとその周囲ぐらいじゃないだろうか?
それ以外は本当に切り捨てても心が傷まないだろう。
ぜひ自助努力で助かってほしいと思う。
俺が手を伸ばす範囲はどうでもいいとして、美濃の国が俺を手駒にしようと考えているのはほぼ間違いない。
以前、わざわざ国主が俺に会うためと言って神戸町にやって来たことがあった。
国主ともなれば、軽々しく動く事はできないだろう。仕事を多く抱えているはずだ。
だというのに、時間を作り俺と話をしていった。
召喚状を出すことができなくても、会って話をするぐらいはいつでもできると釘を刺された気分だ。
そこには探りを入れる、こちらの行動をコントロールするといった意図が込められているのだろうが、残念ながら俺や夏鈴ではその意図を読み切れない。
相手の目的、俺に求めるものが分からないので対処し様が無い。
下手をすると、釈迦の掌の上にいるような状態なのである。孫悟空かよ。
俺を部下にするという意味ではなく、少々の干渉で都合良く使い倒したい、そう考えられている節がある。
結局、俺たちは美濃の国とは距離を取りたい。
それが俺の考え、基本的な方針であり、現在の行動に繋がっている。
全国に隠れ里を作ろうというのは、そんなことを考えているからだ。
で、水無瀬少年の話では、俺と仙台に向かった事、そこで何か話をしていた事、その話し合いに自分は参加していない事までは教えたらしい。
ただ、大事そうな話は勝手に話していいかどうか分からないので話せませんと、そうやって口を噤んでいた。
鉄を売った事とか、隠れ里の話とか、そういった内容は一切教えなかったみたいだ。
「ああいった話は、広めたら拙いんですよね?」
「うんうん。分かっているね。ありがとう」
あの旅の後、水無瀬少年には口止めをしておいた。
聞かせるつもりの無かった話まで聞かれたからね、当然の対応だ。
そして水無瀬少年は、言い付けをちゃんと守った。
いい子である。
しかし少年を褒める笑顔とは裏腹に、俺は腹の中で美濃の国への対応を考えていた。