17-15 カード化の限界
隠れ里を複数作るとして、どの程度の規模を想定するかは非常に重要だ。
何人が暮らす?
どんな施設がいる?
食料供給に余裕はあるか?
考えるべき問題は多岐に渡り、本当に最小限にしてしまえば、俺の掲げた目的「いざという時の避難所」という機能が失われる。
逃げ込む場所で、更に追い詰められるなどあってはならない。
そこは大垣市で見た難民たちの生活と、その表情から学ばねばならない。
「逃げるのが我々だと想定すると、創様1人が受け入れられれば良いのでは? あとの者は全部、カードに戻れば良いのですし」
「まぁ、そうなんだけどさ」
夏鈴はそのあたりをさっぱりと割り切る。
俺1人が無事ならそれで良いと、そのようにしか考えていない。
「どちらにせよ順番に箱を作っていくだけですから、ある程度の拡張性を意識しつつ、優先順位を付け、目の前の仕事を熟すだけです。
時間がかかると思えば、焦らないことの方がずっと肝要ですよ」
将来のことは将来のこと。
今は目の前のすべき事に集中するべきだと、夏鈴は言う。
「村を持って行けないのだから、全員に元の暮らしを提供することは出来ません。諦めて下さい」
彼女は俺に対し、優しく諭すように言葉を重ねる。
理想を掲げるのは構わないが、現実を見ろと。
言っていることは分かるんだけどね。
ただ、リーダーの一番の仕事は理想を掲げることで、それを現実に落とし込むのは部下に任せちゃっても良いんじゃないかとは思う。現実を見るだけじゃ、希望が無いのだ。
そんな言葉は口に出来ないけどね。
理想論しか言わないリーダーって、それはそれで付いて行くことに不安を感じるし。
そのあたりのバランスは、かなり難しい。
そうまで考えた所で、ふと引っかかりを覚えた。
「村は持って行けない。なんでだ?」
カード化は、「1つのモノを一枚のカードに収める」行為だ。
家であれば家具などもそれに含まれるし、住人以外を1つとしてカウントする。住人は家じゃ無いからな。そこは当たり前として。
複数の物品も、1つとしてカウントできるのであれば、一枚のカートになるのはこれまでの経験が証明している。
じゃあ、村を1つとしてカウント出来るのか?
答えは、「出来る」だった。
そのかわり、魔力の足りない俺は、回復する側から魔力を持って行かれるという状態を10日間も味わう羽目になった。
いっそ殺せと、本気で思った。