17-11 成長・加齢①
夏鈴のコピーを作る事に、俺は抵抗感を覚えている。
そして他の誰かで試すというのも、したくない。
感情論を言えば、「やりたくない」で心が固まっている。
なので、素直にそれを口にしてみた。
すると夏鈴は、何かを考えるように口を噤んだ後、深々と息を吐いて、自説を引っ込めた。
「創様の心の負担までは考えに至りませんでした。申し訳ありません」
自身の提案するメリットが失われたわけではないが、それとは別に、俺の感情という見落としがあった。
その点を反省すると、夏鈴は頭を下げる。
「ですが、問題が無くなった訳ではありません。今後は、別の方法で問題を解決するように考えます」
そして俺たちの抱える新たな問題、夏鈴の不老性の噂話をどうするのか、その話は何も解決していない。
問題は、問題のままだ。どうにかしないといけない。
「若返りのアイテムを作る、ではダメなんだよなぁ」
「はい。町には、既に美肌鶏の子を売っています。今更、あれ以上の効果を持った何かを売る事は下策じゃないでしょうか」
方法論その1、新しいアイテムの用意は、考えるまでもなく却下。
本当に若返りの効果を持つアイテムが出てきた時、人が何を考えるかなど分かり切っているからだ。
簡単に言えば「もっと寄こせ、他にも無いか」である。
「仲間に引き込むのは、リスクが大きすぎる」
「それに、カード利用枠の問題もありますからね」
方法論その2、女性達をカード化して彼女らの若さを維持するのもアウト。
人間を止めさせるようなものだし、産まれた子供は終の時のような騒ぎになるだろう。そして俺のカード利用枠の上限が足りなくなる。
問題を抑えるためでも、さらに大きな問題を起こす馬鹿はいない。
「やっぱり夏鈴を加齢させるのが一番なのかね?」
「この繋がりを断てと言われると……くるものがありますね」
方法論その3、夏鈴らのカード化を解除する。
人前に出る者たちに関しては、カード化した者を起用しない。そうする事で周囲との軋轢を最小限に抑え込める。
ただ、カード化を解除すると死んだらそれまでになる事と、いざという時の対応力が削がれる事になるし、カード強化という成長が今後見込めなくなる。
それが普通だと言ってしまえばそれまでだが、これまでずっとあった恩恵が無くなるというのは、抵抗感を感じてしまう。
それに、カード化解除は夏鈴たちにとってもストレスのようだ。
俺のストレスを回避するために夏鈴にストレスを与えるとか、流石にそれは外道である。
残念だけど、この方法も却下。
「賭けるしかないか?」
「そうですね。悲観論に支配されていては先に進めません。それに、これなら実験もできるのではありませんか?」
方法論その4、カード強化による加齢。
正攻法中の正攻法である。
話としてはそのままだ。
ただ、上手くいくかどうかは分からないため、本番前に実験するよ。
回り道をしてみたが、出来ない事を出来ないと確認する作業なので、これも必要なプロセスである。
出来る事だけでなく、出来ない事を互いに共有しておくのも大事だ。無駄ではない。
いきなり何年分も加齢しては逆に違和感があるだろうし、1歳分か2歳分、上手く大人にできるといいな。