17-10 無責任な噂話④
割と初期、カードが足りていない頃は、必要だからとモンスターカードのコピーを少しだけやった。
けど、最近はそういった事をほとんどやっていない。
例えばゾアンとか、オンリーワンのカードだって増やす気にならないのだ。
記憶の中にある創作物の影響か、コピーされた者とオリジナルの近親憎悪とか、アイデンティティの同一性に関する問題とか。そういった負の側面によるリスクが存在するからだ。
中にはコピーされた後の自分と仲良く共存するパターンもあったけど、俺の考えとしてはメリット3割リスク7割と言ったところだろうか。やりたいとは思えない。
「外見だけ似せた、他の誰かじゃダメなのか? どうにも、仲間のコピーっていうのは引っ掛かるというか、出来ればやりたくない手段なんだが。
外見もほら、化粧で誤魔化すとか」
「残念ながら、そういう段階は過ぎています。困ったことに、私の容姿が変わらないのは、すでに神戸町でも噂されていまして。
最初はいつまでの肌の具合が、と言われていた程度なのですけれど……変わっていく創様と比較されているせいか、本当に人なのかと、疑問視されています。
私だけでなく、凛音や莉奈も同じですね。女は、同じ女に対する視線が厳しいんです。化粧で誤魔化したところで、すぐに見抜かれます」
「そっかー……。難しいな」
俺はコピーを渋るが、夏鈴はなぜ必要なのかを説明する。
外見が大きく変わる可能性を考慮し、変わってしまった時の繋ぎになれる自分を用意する必要がある。
それは外見を似せた誰かではできない、重要な仕事なのだ。
もしも影武者を出来る別人がいたとしても、それに気が付かれたなら、効果は逆転する。
そうまでして、誤魔化さねばならない理由があるのだと。邪推を生むきっかけになりかねない。
安易な妥協、下手な誤魔化しは最悪の結果を招きかねないのだ。
残念なことに、数年間変わらない夏鈴の外見は既に注目されており、写真などでもあれば一発でアウト判定になるところをツーストライクでギリギリと持ちこたえているに過ぎない。
美容に関する女の執念は凄まじく、簡単に誤魔化せると思わない方が良いらしい。
すでに広まった噂をどうにかできるほど、この話は簡単ではないのだ。
これを今まで言いださなかったのは、事態が深刻化したのはここ1年程度だった事と、俺がゆっくり姿を消そうと考えていたのでそこまで問題視するほどではないと思い直したのが理由となる。
……夏鈴は口にしなかったが、神戸町に行く間隔が伸びつつあったのもうわさが広まる下地だったように思う。
頻繁に顔を合わせていると変化が無い事に気が付かないものだが、たまにしか会わなければ変化の無さは違和感になって現れる。
そのあたりは、俺の行動の迂闊さの反動なのだろう。
ただ、なんとなくだけど、夏鈴が自分のコピーを欲しがるのには、もっと別な理由があるように思う。
それが何なのかははっきりと言い切れないのだけど、俺に関わるものじゃないかという事だけは分かる。
それは、俺にとってあんまり嬉しくない話のような気もするよ。
若さを求める女たち。
夏鈴の変わらない姿を維持する秘訣・極意を知りたいと願う程度の言葉から始まる噂話。
そこに夏鈴本人の思惑が重なって、話はややこしくなった。
解決のための一手として提案された、夏鈴のコピー。
記憶の継承に関する検証の必要性も加味し、一度ぐらい試した方が良いとか、そんな考えもあるんだけど。
「大切な者ほど、コピーは嫌なんだよね」
なんか、大切に思う気持ちが穢される気がして。
これがパソコンのデータなら、大切な物ほどバックアップを取るというのに。
人と物に差をつける、何と傲慢な考えなのだろうか。