17-7 無責任な噂話①
その日の俺は、神戸町で団子を食べていた。
人と物、行商と建築関連の采配が終わると、俺の手は空く。
俺にしかできない事は数多くあるが、それは魔力とカード利用枠の関係で制限が入り、時間をかければ良いというタイプの仕事じゃない。
そこをサッと終わらせてしまえば、わりと暇を持て余すのだ。
そんな訳で、俺は神戸町で買い出しをするという仕事をして、今は休憩中という訳だ。ニノマエの連中に任せてもいいんだけど、俺がやっても構わないのだから、仕事を分けてもらい動いたのである。
あとは知り合いの所に顔を出し、軽く挨拶をして帰ればいい。そんなふうに考えていた。
「よぉ、創」
「爺さん。珍しいね、ここに来るなんて」
俺がおやつの団子を食べていると、難しい顔をした爺さんが現れた。
表情を見る限り面白くない事でもあったんだろう。そして俺には心当たりが一つあった。
「水無瀬少年は、そろそろ本調子に戻ったのかな?」
「いいや、まだ駄目だな。ま、仕方がないとも言えるが」
水無瀬少年は、仙台から戻ってきてからずっと塞ぎ込んでいる。
気持ちの整理を付ける、その為に仙台まで連れて行ったわけだが、逆に気持ちの整理が上手くできなくなり、仕事に支障が出ているとニノマエの店員仲間から聞いた。
それは仕方がないと思うし、しばらくは大目に見てあげて欲しいと周囲には伝えてある。
で、出来れば心のケアをお願いしたいわけだが、そのあたりは爺さんを始め、年長者たちに相談してあった。
その爺さんがここに来て、難しい顔をしているのだから状況は簡単に察せられる。
「それもそうだが、そうじゃねぇんだ」
「はい?」
「なぁ、創。お前、余所の開拓をするって話は、本当か? 仙台に行っちまうのか?」
爺さんは、急に俺の隠れ里建設の事を話題に持ち上げた。
そのあたりの話は外ではしておらず、なんで爺さんが知っているのかと驚き、思考が止まった。
身内、夏鈴らが話を漏らすとは考えにくい。
魔剣部隊はしばらく連れ歩けないからそこからの情報漏洩はあり得ない。
そもそも、護衛のみんなの口が軽いと思っていない。
すると、水無瀬少年という可能性が思い浮かぶ。
宿の遮音は自分たちの借りた部屋に止まっており、水無瀬少年を外していなかった事を思い出す。
その可能性に思い至ったが、情報の漏洩元は問題じゃないと思考を切り替える。
「そういった計画は無いですね。国主サマが俺に無理難題を持ち掛けない限り、それは無いです。
仙台で開拓を始めたのは、現地の鉄不足を解消するためですね。俺が向こうに移住するって話は無いですよ」
「本当だな? 信じていいんだな?」
「はい。仙台に本拠を移す計画は無いです。
仙台以外にはそんな計画が有るとか、そういうオチも無いですよ」
あるのは村に引きこもるという計画ぐらいだ。
この件で隠し事をするのは心苦しいものがあるけど、せめて嘘は言わず、話せる事だけでも正直に話す。
すると爺さんは俺の様子に何か勘付いた様だが、そこは踏み込まず、ぐっと堪えるような表情をした。
爺さんには人生経験の差でバレているなと思ったが、その人生経験による判断でこちらを尊重してくれている。本当に、爺さんとは得難い関係の人だと思う。
俺は最後までこの人には敵わないんだろうな。