17-3 狸とキツネの話し合い
「まずはどこに村を作るのかと、村の規模と、鉄の生産量。そのあたりを具体的な数字で出してもらい、それが本当か確かめさせてもらえるなら、話に乗ってもいい」
話を持ち帰った加藤さんらは、人を出す事を前向きに考慮することにしたようだ。
彼らの話は“できない理由”ではなく“するための条件”だ。
後ろ向きに、話に関わるのが嫌ならできない理由を並べ立てるものだが、「こうすれば参加していい」というのは、意外なほど前向きな証拠である。
そういう事なら、こちらもちゃんとした対応をしようと思う。
「俺が考えているのはこの場所で、規模は100人が常駐できる村を目指します。あ、一番近い街道はこのあたりですね。
すでに人を動かしているので、家は何軒か有りますよ」
「ここか。街道からずいぶん外れているな」
「だから選んだんですよ。話が流れた場合は隠れ里になったので」
俺は適当に書かれた地図を取り出し、具体的な場所を説明する。海沿いの仙台市からはけっこう離れた山間になる。
相手も地元だからか、距離感は掴めているようで、立地に対して不満の声を漏らした。
「道を拓かんといかんな」
「そうですね。定期的な通行には必要でしょう。そのあたりにも手は貸しますよ」
出した情報の幾つかは嘘を混ぜている。
これは相手が本気かどうか疑っている訳ではなく、俺がささっと家を置いていく事への仕込みである。
伏せられそうな情報は出来るだけ伏せておきたいのだ。
そうやって話を進めていくと、加藤さんの方がポツリと疑問を漏らした。
「こうやって話をさせてもらってはいるが、よくこちらを信用する気になったな。お前さんを殺して村を奪う、とは考えなかったのか?」
「逃げ足には自信があるんですよ。いざとなれば火を放って逃げるだけです」
どうやら俺の事を心配してくれているようだ。
かなりあり得そうだと思える懸念を抱いている様だが、その心配は杞憂だと笑ってみせる。
「ああ、そうだな。火を放たれてはかなわん。もしそんな事になりそうなら、ワシらも上を全力で止めねばならんな」
言われた加藤さんは何処か安心したように、あまり良くない笑みを浮かべた。
これはアレか。
前向き発言はこちらの成果を自分たちの手柄にするための仕込みで、情報を得てから俺を暗殺。得られるものを安く手に入れようとする嘘だったのか?
加藤さんらは上の意向に逆らえず、こんな事をしたくないと考えていれば、それが出来そうになくて安心したという話だろうか。
この話を振ったこと自体、俺への密告みたいだね。
そうだね。
普通に考えればそんなことを考える奴も出てくるか。
でも、まだ実害を被ったわけではないので、様子見でいいかな?
もちろん、やられた時は全力で応対するけどね。
今週の平日は本業が非常に忙しく、残業で夜の更新が遅くなります。