1-ex 鉄(いまだ遠く)
石で組んで土を塗っただけの小さな窯。
火を入れたのは昨日だけど、薪が残っているのか、まだ小さな炎が揺らめいていた。
まぁ、まだ燃えていようが気にしないんだけどね。
俺は木製のハンマーを使い、窯を壊していく。
こうしないと中身が取り出せないのだからしょうがない。基本、この窯は使い捨てだ。カード化してあるので、何も問題ない。
窯がある程度壊れると、焼いていた中身が出てくる。
それは長方形をしたブロックで、ハンマーで軽く叩けば硬質な音が返ってくる。
建築資材に使おうと思って作ったレンガである。
ただし一部は焼いている最中に壊れたようで、無事なものは半数未満。10個も無い。
そして無事な物もちゃんと焼けたのはさらに半数で、5個しかまともな完成品が無かった。
すでに何回か焼いているのでコツをつかんだ、と言いたかったけど、10回20回で掴めるコツなど大したものでもない。
もう一ケタ、できれば更にもう一ケタを積み重ねてこそ、見えてくるものもある。
俺は泥コネ担当と火の番担当のゴブリンを労うと、窯を≪リセットワークス≫で作り直すのだった。
焼き物担当ゴブリンが涙目だった気もするけど、それでもやらせるよ、俺は。
ブラックなのだ、うちは。
俺は今、レンガを焼いている。
出来の方はお察し、素人が適当にこねた土で作ったレンガなんて大したものではない。
ただ、今後はレンガを多用した建築物をいくつか作りたいと考えているので、こういった積み重ねをしているわけだ。
目標は、製鉄である。
鉄製品を自作したい。
特に、釘。
最初、俺は家の周りに倉庫を作ろうと思った。
この平原は米が獲れるので、米を保管する、木の倉庫を建てたいと思ったわけだ。
けど、それには多くの釘が必要になる。
できれば木材加工をする道具も欲しい。
そう考えたら、鉄を加工するための施設が必要だと思った。
カードにして鉄鉱石を作り、鉄鉱石と何かを合成して鉄製品にする。『石ころ』の強化と進化に加え合成する物もある程度育てる必要があり、そこそこサイズの鉄製品一つに、おおよそ3日かかる。
鉄製品をカード強化ばかりに頼っていては、他のカードが育たない。その手間と労力を別の何かに向けるべきだと思う。
そう思って、レンガを作らせているわけだ。
作ったレンガで新しい窯を作り、もっと高温に対応できるようにする。
石ころと土で作った窯では全然足りないのだ。
あとは送風周りをどうにかしたいけど、そこは、頑張って研究させるということで。
今は手探りでいろいろ試す時期なんだよ。きっと。
問題は、レンガだけじゃなくてセメントも研究しなきゃいけないこと。
焼き物であるレンガは置いただけでくっつくわけじゃないので、繋ぎが要るんだよね。
鉄製品への道は長い。
できれば、鉄の鉱床も欲しいなぁ。
窯ができたとしても、今のままでは鉄鉱石が俺次第だから。
我ながら、無茶を言っている。けど、俺頼りを減らさないといけないのも事実なわけで。
いや本当に、何もかもが足りていないな。