17-2 聞こえていた人
全国に隠れ里を作るという構想は、エルフ達を見習ってのものだ。
人間とある程度関わりつつも独自の政治体系を持ち、必要に応じて協力し合うスタイルは見習うべき部分が大きい。
完全な協力関係というより人間種と良き隣人として、適度に付き合いを持つ事は俺の目指すべき理想に近いと言える。
完全な隠れ里も作るけど、それ以外も適度に作る。
仙台、中陸奥の国とはそこそこに協力し合うような形を取りたいと考えている。
美濃の国? あそこはなぁ。
あれだけ揉めた後だから、完全な隠れ里スタイルという事で、もう少し人気の無い所にでも移住を考えていたりする。
するかしないかは横に置き、場所は変えた方が良いと思うんだよな。
俺が考えている話を、ドワーフ2人にも説明しておく。
全部話すわけでは無いが、何も説明しなければ来てくれる可能性はゼロだろうし。
そうしてこの場で結論を出さないようにお願いし、一度話を持ち帰り、相談して決めて貰うことにした。
彼らが帰る時に土産としてお酒を渡しておいた。
ドワーフと言えばこれだろうと、焼酎、つまり蒸留酒を数本渡しておいた。
ウチの呑兵衛たちが気に入った、下野の国で見付けた逸品なので、おそらく飲んだことは無いはず。
酒が好きなら、きっと気に入ってくれると思う。
彼らが帰った後は、俺の隣で話を聞いていた夏鈴との相談だ。
「来てくれると思うか?」
「彼らの表情を見る限り、彼らが興味を持っても来られない可能性の方がかなり高いと思いました」
今回の勧誘は、必須では無い。
絶対に成功させようという気概も持たずに話をしたので、こちらの本気度が足りず、断られる可能性が高いと夏鈴は指摘した。
こちらが本気で勧誘していれば、彼らもそれに応え、上の意向を無視して動くかもしれない。
だが、「成功したら良いな」程度の気迫ではリスクに目が行き、失敗に巻き込まれる事を嫌って近寄らない。
奇跡的に、彼らの上が興味を示し、Goサインを出すかどうかが決め手になる。
奇跡的と言うほど、上手くいかないというのが夏鈴の予測だ。
「ま、失敗した所で構わないと、軽い気持ちで誘ったのは確かだからね。失敗するならそれはそれで構わないよ。
ただ、その時は彼らを優遇することも無く、一番工房との扱いに差を付けないってだけだよ」
「そうですね。失敗しても痛くもありませんし」
こんな気持ちでいるから失敗するんだろうなぁと、夏鈴と2人、軽く笑い合う。
この時、俺たちはすっかり忘れていたが、水無瀬少年が近くの部屋で寝ていたのだ。
防諜対策に遮音の魔法は使っていたが、その部屋はいざという時の声掛けができるようにしてあったため、遮音の範囲内である。
つまり、寝ていた水無瀬少年にも、しっかり話は聞こえていた。
その事が、話を少しややこしくする。