16-26 中陸奥の製鉄業⑦
「高炉? うちはそんなもの、使ってないぞ」
「仙台で主流の製鉄は昔ながらのタタラ製鉄だ。高炉は補助だな。石炭は輸送費が高すぎる」
「蒸気船だよ、鉄不足の理由はな」
「アレが稼働して、石炭がもっと入ってくるようになれば楽になるんだがなぁ」
「そうだなぁ。そうすれば、もっと鉄が手に入るようになる」
自信満々に高炉による鉄の質低下を主張した俺だが、ものの見事に外してしまった。
正解は、交易が順調だから船の大型化を目指し、蒸気船を作ろうとしているからだった。
鉄をふんだんに使った蒸気船が完成すれば、交易はより安全に、大量にモノを運べるようになる。
建造費がペイできるようになるのは数年後だろうが、その間に石炭の輸入を行い、高炉が増えれば、1年と経たず元が取れるかもしれない。
ちゃんと出航できる船さえ出来るのであれば、状況はかなり良くなるだろう。
で、高炉はすでに稼働していて、そこそこの鉄が作れるだけのノウハウを蓄積しているようだ。
しかし石炭の関係で本格稼働とはいかず、試験運用にとどまっているらしい。
あと、タタラ製鉄の鉄と高炉の鉄は、そこまで喧嘩するようなものにはならないとも言っている。
高炉の方がリサイクルには向いているからね。鉄鉱石から鉄にするまでと、再利用とでやり方が違ってもドワーフ的に良いようだ。
すみ分けが出来ているというか、常時最高品質の鉄に触るよりも、低品質から高品質まで幅広く関わった方が人を育てやすいというのが彼らの考えらしい。
これを言ったら怒られそうだが、頑固職人に見えるドワーフでも現実を見て物事を柔軟に考えられるようである。
「蒸気船の建造ですか。これは、俺が聞いていい話なんですか?」
「構わんよ。本気では隠しておらんからな」
「まぁ、あまり口外せんで欲しいのは確かだな」
一応、この話は秘密だったようだ。
それもそうだろう。大々的に公表して「いつまで」という話になり、納期に間に合わなければ現在の中陸奥の政権にとって致命傷になりかねない。
本番ではなく試作の段階でしかないのだから、公表によるイメージ戦略をするのは気が早すぎる。
あまりにも大がかりなプロジェクトだったため、聞いていただけだが俺は精神的に疲れてしまった。
お茶を飲み、大きく息を吐いて、椅子に体重を預ける。
「木造船から鉄甲船ですか。凄い計画ですよね」
「おう。計画はそろそろ最終段階に入るのでな。鉄をそっちに持って行かれるのだ。おかげでワシらはずいぶん暇をしておる」
「全く手に入らんわけでは無いが。少なすぎる。職人が腕をさび付かせかねん。だが、数年先を見越して、今は我慢というわけだな」
加藤さんらは嬉しそうに蒸気船の事を教えてくれるが、それでも仕事が減った事には不満があり、不安を感じている。
分からないでも無い。成功するかどうかは、どうしても賭けになるのだから。
成功するまで、その不安と付き合い続けなければいけないわけだからストレスも相当なものだろう。
こちらにとっては好都合である。
「これはちょっとした提案なのですが――」
そんな2人に対し、俺はある提案をする。
提案そのものはお互いに利益のある話だ。
すぐに、という話ではない。
だが、半年もあれば形は作れるだろう内容だ。
俺の提案に、2人は魔法金属を見た時以上に驚いた顔をした。
我ながらぶっ飛んでいるとは思うけど、悪い話じゃないんだから少しぐらい考えて欲しいな。