16-25 中陸奥の製鉄業⑥
魔法金属を目にした加藤さんと月見里さんは、残念ながら、魔力の扱いが下手だった。
魔法使いの人口が少なく、魔力を扱う感覚が無い人が一般的と考えると、扱えるっていうだけでも凄い事なんだけどね。
なので、魔法金属には俺が魔力を通し、その性質を見て貰う事にした。
「ははは! こりゃ凄え! 凄えとしか言いようがねぇ!!」
「こんな冗談みたいなもんがあるのか! でも、こんなモンは武器か防具に使うしかねえぞ!?」
「バカを言うな! 武器に使ったら、あっという間に使い切っちまうだろうが! 長く使う、長く使えるモンの方が良いに決まってるだろうが!」
「命預けるモノにこそ、良い金属を使うべきだろうが!!」
「なんだとこの野郎!!」
「やんのかゴルァ!!」
すると、先ほどまでの物わかりの良さは何だったのかというぐらい意見が衝突し、喧嘩をし始めた。
やっぱり、こいつらもドワーフだったか。
喧嘩っ早いのは種族的なものなんだろうね。思わず偏見でモノを見てしまったよ。
それぐらいデカい声で喋り、掴みかかるような距離感で生きている。
これは後で聞いた話だが、この声が大きく喧嘩っ早いのは種族ではなく職業柄の事らしい。
と言うのも、鍛冶場は鎚をふるう音でうるさい為、どうしても大声で喋るようになるし、それでも気が付かず肩を叩かれたりするのが日常茶飯事だからだ。
つまり、大声で話すのもどつき合いをするのも、騒音響く鍛冶場の延長線上だそうだ。
あと、口が悪くなったのは師匠の師匠がそうだったので、それが受け継がれてしまったと言うだけ。
種族的にどうこうという話ではないのだ。
さて。
俺が魔法金属を彼らに見せたのは、いくつかの理由があっての事だ。
一番工房に対し嫌がらせをするとか、そんなちゃちな話じゃ無い。もっといろんな利益があるからそうした。
その一つは。
「気になっていたんだけど、一番工房の態度が悪いのは昔からなのか?」
彼らを情報源にするためだ。
目の前に“売ってもいい”魔法金属があれば、口も滑らかになるだろうというものだ。
売り手であるこちらを、相手は無下に出来なくなるからね。
「昔から、ではないな。わりと最近だ」
「そうだな。前はもっと余裕があった」
「最近は鉄の質が落ちたからな」
「ああ。アイヌとの交易が上手くいった事が裏目に出た」
2人は俺の質問に対し、顔を見合わせ悲しそうな顔をした。
どうやら、と言うか、分りやすい情報が出てきたな。
アイヌというのは北海道の先住民族だが、ここ現在では北海道に住む連中を指す言葉になる。
そこに「交易が」を鉄関連と考えると。
「高炉の鉄は、そんなに品質が低いんですか?」
そういう事なんだろうなぁ。
ある程度時代が進み機械化された高性能高炉ならともかく、初期の反射炉は品質よりも生産量第一だったと言うし。
技術的な時代が江戸から明治レベルになったんだろうけど、その頃が一番タチが悪い。
目指せ、昭和レベルなんだろうけど、当時の日本と今の状況はまるで違うし、すぐには追いつけないだろうし、今、目の前の問題はどうにも出来ないよね。