16-23 中陸奥の製鉄業⑤
「そっちも商売だろうが。なぜ断る。金は適正な額を出すって言っているだろうが」
「そうやってこちらを見下す輩に売るものはない、と言う事ですよ。相手の都合を考えない、ただ押しつけるだけの人との商いは、長く続きませんから」
「商談での信頼関係っていうのは、金の支払い能力だろうが!」
「金さえ払えばどんな態度を取っても良いと思うような奴、信用できるか!」
ドワーフ達から鉄の追加の発注があったが、そんなものは突っぱねた。
こちらと対等な契約を結んでくれそうになく、確実に足下を見てかかっていたからだ。
「俺らに盾突けば、ここで商売できなくなるようになるぞ」
「残念。店の一つもない土地で商売できなくなったところで痛くも痒くもないね」
彼らはどうやら仙台市で強い立場にあるらしく、こちらに脅しをかけてきた。
が、俺たちは行商人で、そもそも仙台市どころかこの中陸奥の国からも撤収すればいいだけだと言い返せば唸るだけであった。
こちらとしては、対等な関係で握手できそうであれば、話に乗っても良いと思う。
別に利益を得る事が目的ではなく、商売で信用を築き、出先の情報を仕入れ、村に持ち帰って貰うための行商なのだから金銭に固執する意味が無い。
金払いが良くとも、彼らがこちらに対し足下を見るような連中と取り引きする事が自分たちにとって良い結果を生むとは到底思えない。
精々、奴隷のように良いように使い倒されるだけだろう。
信頼関係を築くなど、出来るとは思えない。
ドワーフたちは、俺の後ろに控える魔剣部隊を見て暴力的に振る舞えないと悟ると、俺を忌々しげに睨む。
鉄の鑑定能力を見ればこいつらは優秀な職人なのだろうし、交渉人を別に手配するなどの対策も出来るというのに、それをしない。
人間の守衛を雇うのと同じだ。鑑定は本人らがこのまますれば良いと思うけど、商売の部分は分業してしまった方がよほど上手く鉄の買い付けが出来るだろうに。
はっきり言って組織側の手抜きだ。もっと真面目にやれよ。
交渉決裂は既定路線で脅される事も想定内。
俺は相手に合わせて声を荒げてみせる演出も加えつつ、最後まで冷静に対処したのであった。
「あの人らも悪い人じゃないんだよ。昔気質の職人って言うか、買うのも売るのも自分が認めた奴じゃないと駄目だってだけで、売れって言われたってのは、認められたって事なんだ。
口の悪さは確かにそうだけどさ、アンタを対等と認めなかったわけじゃないぞ。取り引きを口にしたなら、商人として優秀だって認めている」
「……その口の悪さ、それに延々と付き合えるほどの信頼関係が無いので、継続的な商売は無理です」
話し合いは守衛さんにも聞こえていたようだ。
ドワーフ、かなりの声量なので声が良く響くんだ。
こちらも機密情報を扱ったわけではないから気にしないけどさ、多少は防音に気を遣って良いと思った。
あと、だから分かってくれと言われようと、分かる気は無いです。
俺は守衛さんに声をかけ、他の工房のドワーフと話が出来ないか確認してみた。
「構わないが、来てくれるとは限らないぞ」
「面白い金属がある事さえ伝わるなら、それで良いです」
ここで話し合うのは嫌だったので、宿を教え、そちらで話が出来ないかと付け加えておく。
相手もアレの干渉は避けたいだろうし、きっと話に乗ってくれるんじゃ無いかな?
投げられた賽は、どんな目を出すだろうね?