16-22 中陸奥の製鉄業④
水無瀬少年の世話に莉菜を、あとは護衛も魔剣部隊から2人残し、残るメンバーでさっさと商談を済ませにいく。
ここに来た俺たちの目的のひとつ、鉄の売却をするためだ。
約束はきっちと守っておこう。
……1ヶ月後と言いつつ、20日と経たずにまた来たわけだが。
えーと。帰りに3日、休息と試食なんかで4日、少年と合流してからこっちに来るまで5日。
合計12日しか経ってないね。
早い分には構わないだろう。
今回の持ち込みは、前回と同じ3種類の鉄を100kgずつ、合計300kgになる。
これ以上の量を商うのは不自然という事で、この程度に抑えた。
あるだけ全部持って来いと言われていたが、自分たちで使う分もあるのだし、本当に全部持ってくるわけも無いからね。
工房のあるエリアに足を踏み入れると、前回と同じ人が守衛をしていた。
「ここは――って、お前らか。後ろのは見ない顔だが……。いや、あの時の子供と同じ顔?」
「どうも。先日お話のあった、鉄の納入できました」
「ああ、うむ。後ろの連中は?」
「荷物持ち兼、護衛ですよ。運ぶ荷が荷なので、身体の大きいのを連れてきました」
「ああ、そういう事か。今回も詰め所で待っていてくれ。鍛冶師の連中を呼ぶから」
守衛の人は、俺たちの顔を覚えていたようだ。
まだそんなに日が経っていないとは言え、一度見ただけの俺たちの顔が記憶と一致するとか、凄いな。
これが俺たちを認識するだけならまだしも、身体が大きくなり別人のようになった魔剣部隊の連中に違和感を感じるとか、漠然とした覚え方では無く、ちゃんとした記憶をしている事がよく分かる。
あんまり突っ込まれたくなかったので、思わず話を逸らしてしまったよ。ああいう急な話題転換は相手に不信感を与えるから、あんまりやらない方が良いんだけどね。
魔剣部隊に関しては、ちゃんと納得してくれていると良いんだけど。
詰め所で自前の冷たいお茶を飲みつつ、鍛冶師連中を待つ。
するとすぐに、前回と同じようにドタドタという足音が聞こえてきた。
「鉄がもう来たって言うのは本当か!?」
「商人が」ではなく「鉄が」ね。
ブレない連中とは思うけど、失礼だな、こいつら。
エルフとは仲良くやっているけれど、ドワーフとはこれで縁を切った方がいいかもしれない。
悪い連中じゃ無いのかもしれないが、俺とは根本で合わない。
面倒くさそうで、付き合いを深めたい連中で無いのは確かだ。
俺は冷ややかな目で鉄を検分するドワーフたちを見る。
前回と面子が違い、今回は購入の約束を取り付けた工房の鍛冶師だけのようだ。
鉄の品質に間違いが無い事を確認し、満足そうにしている。
それならそれで、面白そうな展開もあるかな?
こいつらとは合わないが、他の工房の連中とはどうだろう?
もしかしたら、ワンチャンあるかもしれないね。