16-21 水無瀬少年、仙台にて倒れる
身体が大きくなった魔剣部隊のおかげか、今回は一度も襲われる事無く仙台市に辿り着いた。
甲斐国で遭った様な小狡い役人に絡まれるといった事態も無く、至って平和な道のりだった。
ただし水無瀬少年だけは狼の背中に縛り付けられてでも先に進む事を選んだため、その身はボロボロになってしまった。
慣れない狼の背中で揺られたため、道中に食事を何度も戻し、飲み物だけで栄養摂取をしていた。
そこまでして、早く仙台に行きたいと願ったのだ。
個人的にはそこまで慌てず、休憩を挟んだ方が良いと思ったのだが、水無瀬少年は頑なだった。
ここまでお預けを食らっていたので、どうしても待てない、我慢できなかった様だ。
「苦いけど、酔い止めに効く気付けの葉っぱね。噛んどくと少しはマシになるはずだから」
「すみません……」
仙台市に着いてすぐ、水無瀬少年は倒れた。
自分で望んでやっていたとはいえ、端から見れば拷問とも思える3日間を耐え抜いたのだから。
今は宿屋で寝込んでいて、せっかくの故郷を見て回る事も出来ないでいる。
何が少年をそこまで突き動かすのか。
何で一日でも早く故郷に戻りたいと思うのか。
そこにはもう、何も残っていないというのに。
残念ながら、故郷の無い俺には共感できない感情だ。
強いて言えばゴブニュート村が俺の故郷になるのだが、何かあればあの場所を廃棄して別の土地に移動しても構わないと思っているからな。
一緒に居る皆がいてくれるなら、土地に強い拘りは無い。
もちろん今の村を守るためには全力を尽くすよ。
でも、それが適わないとなれば、逃げるのも一つの手段だろうと受け入れられると思う。
そういった合理性だけでは語りきれない思いが少年の中にはあるのだろう。
それが羨ましくなる時もある。
絶対に失えない大切な何かは、きっと外の誰かから見たらガラクタでも、本人にとっては宝物なんだから。
かの有名な「星の王子さま」もそんなような事を言っていたと思うよ。
蛇の抜け殻や綺麗な石ころを宝物に出来るっていうのは、それを通して見える世界があるって事なんだ。
まぁ、早く着いても寝込んで帳消しなのだから、やっぱり合理的な判断が出来た方が良いと思うんだけどね。
故郷を見て回れるのは同じ日程、辛い時間は途中休憩ありの方が短くて済む。だったら途中休憩を入れた方がよっぽどマシじゃ無いか。
子供だなと思うわけだ。
言った所で我慢できるなら、本人もこんな事にはならなかったと自覚してるはず。
大人になるって言うのは、現実を知ってほど良く諦めを知る事なんだろうね。一か八かに賭けたりせず、手堅く得るものを得ていく事が大切なんだ。
夢とロマンを追い求めるのは「男の子」とは、よく言ったものだね。
少年の心を忘れないのは、冒険心を持ち続けるのは、外から見れば格好良いと思うよ。
……大変そうだから、自分では出来ない事なんだけどね。