16-19 成長する少年、退化する俺
そうやって準備をしていると、8月終わりの給料で、水無瀬少年の貯金が満期になったというか、目標金額に到達した。
少年は、満面の笑顔だ。
「これで仙台市まで、お願いします!!」
「うん。任された。
よく頑張ったね」
「はい!」
少年からお金を受け取ると、俺は彼を褒めておいた。
真っ当な方法で頑張れることは良い事だよね。頭を撫でたりしないけど、誉め言葉の一つでも言っておくべきだ。
冬の前にできた目標で、月に13万円の貯金。
服や食費でチマチマと出費がかさむし、その辺を削り過ぎては働く事に影響が出る。
周囲に悪い印象を与えない程度のラインを見極め、物欲に負けず8ヶ月間続けるのは、大人ならともかく子供のうちはきつかっただろう。いや、大人でもお金にだらしない奴は結構いるから個人の資質や目的意識の強さの問題かもしれないかな。
相手がこちらの用意したハードルを乗り越えたのだから、こちらもそれに応じよう。
信頼には信頼を。
誠意には誠意を。
金銭には商品を、だ。
安心安全な旅を約束しようじゃないか。
「創さん、仙台行きまでに用意する物を教えてください。さすがに、手ぶらで行く訳じゃないですよね?」
「いや、水無瀬少年は手ぶらで構わないよ。荷物は基本、こちらで用意する。
強いて言うなら、仙台についてから着る服の予備ぐらいかな?」
水無瀬少年は自分なりに色々と考えていて、旅先に何を持っていくべきかと真剣に悩んでいたけど、ほとんどの荷物はこちらで受け持つ予定だ。
なので、いちいち用意する必要は無かった。
服に関してだけど、旅装はむしろこちらの指定する服を着てもらう予定だから、現地で着るような服はともかく、旅の途中は指示に従ってもらうつもりでいる。
と言うか、少年とも旅程についてちゃんと意識をすり合わせておかないと。
「移動ルートは信濃方面からで、上野、下野を通っていくんだけど――」
「あ、尾張には行かないんですね」
「内戦があったばかりで、戦後だからゴタゴタしててね。行かない方が無難なんだよ」
「へぇ~。詳しいんですね」
事前に予習をしていたので、案内人としての面目を保ちつつ、下調べしておいて良かったと、ほっと胸を撫でおろす。
何も調べずに旅に出て足止めされた場合はどうなっていただろうな。感心する少年を前に、ちょっと冷や汗をかいた
「水は魔法があるし、現地調達もできるからあんまり考えなくてもいいかな。食料も半分は道中で購入できそうだったからね。お金を持っていく方が安全なんだよ。
そのお金を狙って奪いに来るのもいるけど、それは食料を持っていても同じだから。結局襲われるなら、お金の方がかさ張らない分だけ逃げやすい」
「現地調達……。川の水って、そのまま飲めないって聞いた事があるんですけど」
「そこは信用してくれていいよ。気になるなら、魔法で用意する水だけでも1人分は余裕で賄えるから、そうするといいかな」
「そうですね。お腹はそこまで強くないので、それでお願いします」
後は細かい所を詰めて、それでも対応できない事は現場の判断で動けばいい。
こちらの準備は万端なので、あとはいつでも旅に行ける。
しかし、、ニノマエで働き大人になりつつある少年は、周囲への挨拶回りなどをしっかり行い、お土産の話をしていった。
帰ってくる事が前提だから、そういうお金も用意していたのである。
水無瀬少年の成長を嬉しく思いつつ、逆に退化するような自分が、少しだけ恥ずかしかった。